【12月14日 AFP】米国はアフガニスタンからインドまでに分布するイスラム勢力との関わりに巻き込まれつつあり、「テロとの戦い」における中心的な同盟国パキスタンへの依存度を高めざるを得なくなっているが、そのパキスタンの立場が危うさを増していると、複数の専門家らが警告している。

 11月末、172人が死亡したインド・ムンバイ(Mumbai)同時襲撃事件の黒幕は、カシミール(Kashmir)地方の分離独立を主張するパキスタンのイスラム系過激派「ラシュカレトイバ(Lashkar-e-TaibaLeT)」だったが、イスラム勢力の影響力はアフガニスタン、パキスタン、インド、さらに広い範囲へも及びつつある。

■武装勢力の成長の中心はパキスタン

 インド同様、核保有国であるパキスタンには、長年イスラム勢力を支援してきた歴史があるが、このパキスタンが3か国の武装勢力の成長の中心にいっそうなっていると同時に、問題解決の鍵も握っている。

 元米中央情報局(CIA)イスラマバード(Islamabad)支局長のロバート・グリニア(Robert Grenier)氏は、パキスタンの治安当局が「自分たちの手にも負えない怪物を作ってしまった」と警戒する。インド、アフガニスタンをけん制する手段をパキスタン政府に提供したのはイスラム勢力だが、彼らは今、元の主人であるパキスタン政府自身に矛先を向け、政府が望まぬインドとの衝突の引き金さえ引こうとしている。

 一方、7年前の米国同時多発テロ事件後に、アフガニスタンから国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)と、それをかくまっていた旧勢力のイスラム原理主義組織タリバン(Taliban)を追放した米国は、このか3か国を同時に相手にした火消しに躍起にならざるを得ない状態に追い込まれている。

■インド関係、アフガン国境問題につかまる米国

 ムンバイの事件でインドの怒りを収めようと、米国はパキスタンに対し、インドによる容疑者の引き渡し要求を受け入れるよう説得し、地域の火種の渦中にいる。

 パキスタン政府、軍、治安当局がそろって恐れるのは、アフガニスタン国境でのタリバンによる抵抗だけではなく、ムンバイ同時襲撃の背後にいたカシミール地方のグループたちでもある。グルニエ氏はムンバイ襲撃に関して「米国がパキスタンに適正な振る舞いを求めてプレッシャーを強めるほど、ほとんど打ちのめされている体制に、さらに重荷を押し付けることになる」と指摘する。

 米シンクタンク「カーネギー国際平和基金(Carnegie Endowment for International Peace)」のアジア専門家アシュリー・テリス(Ashley Tellis)氏は、「パキスタンにもインドにも一方的な行動による解決が不可避だと感じさせることなく、パキスタンにインドを満足させる何らかの行動を取らせることができるかどうか、ここが米国の別れ道だ」と言う。

 ムンバイ同時襲撃犯の第1の目的はインド・カシミール地方へのイスラム国家建設だが、「インド・パキスタン関係を破壊したり、パキスタンのアフガニスタン国境沿いにある連邦直轄部族地域(Federally Administered Tribal AreasFATA)での武装勢力掃討作戦を妨害したり、ましてやインドとパキスタンを戦争に導くなどという『副産物』が生まれれば、それらはすべて彼らにとっての利益となる」とテリス氏は分析する。

 FATAもまた、米国がパキスタン政府にタリバンによる越境攻撃の阻止を求めている地域だ。

 シンクタンク、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のアナリスト、バンダ・フェルバブ・ブラウン(Vanda Felbab-Brown)氏は、ムンバイ事件の影響でパキスタンに、アフガニスタンとインドに取り囲まれ、さらには分割されてしまうとの妄想さえ抱くような種を与えてしまう可能性を恐れる。

「インド・パキスタン間の緊張は、パキスタンが恐れるインドのアフガニスタン攻撃を、実際に起こさせる結果を招きかねない。そうした代理戦争が起これば、タリバンとの戦いにおけるパキスタンの支援など得られなくなってしまうだろう」(c)AFP/Lachlan Carmichael