【10月1日 AFP】パキスタン政府は9月29日、アフガニスタンの旧政権タリバン(Taliban)への地下支援を疑う声も欧米であるパキスタンの情報機関「3軍統合情報部(Inter-Services IntelligenceISI)」の長官ら上層部の交代を発表した。

 ナディーム・タジ(Nadeem Taj)ISI長官の後任には、パキスタン軍の元作戦司令官アハメド・パシャ(Ahmed Shujaa Pasha)中将が任命されたのを始め、上層部14人が交代した。今回の人事はパキスタン軍上層部の大規模な改革の一環。

 米国、アフガニスタン、インド当局は最近、アフガニスタン政府に抵抗を続けるイスラム原理主義勢力タリバンとISIが隠密に共謀していると非難を強めていた。

 Pasha新長官は、前年10月までISI長官だったアシュファク・キアニ(Ashfaq Kayani)現陸軍参謀長の側近とみなされている。一方、タジ前長官は辞任に追い込まれたペルベズ・ムシャラフ(Pervez Musharraf)前大統領の片腕と評されていた。

 ISI上層部の交代について、パキスタン軍は定例の人事だと強調しているが、同軍とその情報機関を詳細に監視している米国ら同盟国は、パキスタンの安定の度合いと「テロとの戦い」への意志を示すものと受け取っている。

 パキスタン軍の退役中将で軍事評論家のタラト・マスード(Talat Masood)氏は「欧米メディアでISI批判が相次ぐさなかの交代。キアニ参謀長は自分の選択によるチームを完成し、今後さらなる自信を持って軍を率いることができるだろう」と解説した。

■欧米がタリバンへの加担を疑うISI

 2001年、ムシャラフ政権が「テロとの戦争」に合流して以来、9.11米同時多発テロ事件の主犯格の1人とされるハリド・シェイク・モハメド(Khalid Sheikh Mohammed)被告など、パキスタン国内に潜伏する国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の幹部戦闘員多数の拘束や殺害に、ISIは大きな役割を果たしてきた。

 しかし欧米各国関係者の多くは、1996年から2001年までアフガニスタンを支配したタリバン政権の成立に力を貸したISIが、現在も「裏表」で2つのゲームをプレーしていると疑っている。
 
 8月、米中央軍のデービッド・マキャナン(David McKiernan)司令官はAFPに対し、パキスタンとアフガニスタンの国境沿いに潜むタリバンとISIは「一定レベルの共犯関係にある」と述べた。ISIなどパキスタン当局の側で武装勢力を攻撃できなければ、米軍がその任に乗り出すべきかどうかは、米大統領選の争点ともなっている。

 パキスタンにとってイスラム原理主義に対抗する上での同盟国と考えうるアフガニスタンも、歴史的に敵国であるインドも共に、多数の死傷者を出した7月のカブール(Kabul)のインド大使館への自爆テロ事件の背後にISIの関与を非難している。

 パキスタン側は、ムシャラフ大統領自身が2006年、退役したパキスタン情報部員が原理主義者らを扇動している可能性をほのめかしたにもかかわらず、タリバンとのつながりを強く否定している。
 
 建国以来61年の半分以上を軍事政権に支配されてきたパキスタンでは、ISIは水面下ながら中心的な政治的影響力のある存在として国民に恐れられている。

 暗殺された故ベナジル・ブット(Benazir Bhutto)元首相の夫であるアシフ・アリ・ザルダリ(Asif Ali Zardari)パキスタン大統領は7月、エリート集団であるISIを内務省の管轄下に収めようと動いたが、強大な力を持つ軍部の強い抵抗に遭い、方針撤回を余儀なくされた。今回の上層部交代は、この一連の流れの中での出来事だ。 (c)AFP/Masroor Gilani