【8月20日 AFP】グルジア紛争をめぐりロシアとの直接的な軍事対抗の可能性を排除している米国防総省は、ロシアの動きを抑制するほかの手立てを模索している。グルジア軍やロシア周辺諸国の軍隊のてこ入れに力を傾けるのか、兵力を削減してきた欧州駐留米軍を再び増員するのか、米国の軍事予算を見直すのか、ミサイル防衛計画をさらに強化するのか。
 
 このような選択肢に対する米国の答えは、グルジア情勢が今後どのように展開するかに左右される。いずれにせよ、冷戦の再来を予測する声は少ない。

 しかし前週、ロバート・ゲーツ(Robert Gates)国防長官は、ロシアによるグルジア侵攻は、米露の戦略的協力関係における「前提条件すべて」に疑問符を付けていると警告した。

 米国防総省は予定されていたロシアとの合同軍事演習をキャンセルした。他方、北大西洋条約機構(NATO)外相理事会は19日、「(関係は)通常の状態には戻らない」と警鐘を鳴らした。ゲーツ長官は17日のテレビ・インタビューで「全世界が1週間半前や2週間前とは違う視点で今、ロシアを見ていると思う。つまり、(グルジア侵攻の)影響はすでに出て現れているということだ。そして、その影響の大きさはまだ正確に理解されていないと思う」と述べた。

 米国やその同盟国にとって当面の課題は、ロシアとの戦闘で疲弊したグルジア軍のてこ入れだ。イラク駐留のために米国はグルジア軍に訓練と装備を提供していたが、ロシア軍の戦力に及ばないことが今回の武力衝突で証明されてしまった。

 米シンクタンク「レキシントン研究所(Lexington Institute)」のローレン・トンプソン(Loren Thompson)氏は今回のグルジア紛争のような状況下で、ロシアの核兵器による脅威は「いかなる懸念にも勝る」と指摘し、「ロシア軍のグルジア進攻によって、米国の戦略的防衛、つまり対核兵器防衛の予算が強化されることは間違いない」と予測する。

 専門家の間には、ミサイル防衛以外の核抑止力が、今後もロシアの核兵器に対抗するための米国の戦略の中心になるだろうとの見方もあるが、ロシアに脅かされている国に米国が戦域ミサイル防衛を提供する動きに出る可能性もあると指摘する声もある。例えば米国はすでにポーランドに対し、「イランの脅威」を理由とする自らの迎撃ミサイルを配備させている見返りとして、パトリオット・ミサイルの発射台設置などの軍事支援を約束している。

 レキシントン研究所のトンプソン氏は「欧州駐留兵力削減という米国の決断は、ロシアの民主化が進み、平和的な国になったとの前提に基づいていた。米国の政策立案者たちは今、それが賢明かどうか再考しているだろう」と言う。今回のグルジア問題が発生する以前にすでに米軍は削減方針にブレーキをかけ、少なくとも今後数年間は4万人を駐留させることにしている。(c)AFP