【7月11日 AFP】ユダヤ人権擁護団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(Simon Wiesenthal Center)」は10日、ナチス・ドイツの強制収容所で虐殺に関与し「死の医師(Dr. Death)」の異名をとるアリベルト・ハイム(Aribert Heim)容疑者(94)の足取りを、潜伏先である南米でつかみつつあることを明かした。

 同センターによれば、ハイム容疑者の娘の1人であるWaltraut Boserさん(60)をチリのプエルトモント(Puerto Montt)ですでに発見。現時点ではBoserさんに接触はしていないという。Boserさんはチリに住んで30年経っており、すでに地元男性と結婚しているとされる。

 またBoserさんは、この30年間で50回ほど欧州に旅行しているほか、過去2年間はアルゼンチン南西部バリロチェ(Bariloche)を数十回訪れている。アルゼンチンには、数人のナチ戦犯が亡命しているとみられる。

 こうしたことから同センターでは現在、プエルトモントとバリロチェの間で容疑者を追っているという。

 同センターの南米支局長であるセルジオ・ウィダー(Sergio Widder)氏はAFPのインタビューに対し、「確かな、信ぴょう性の高い証拠を得たが、これから確認が必要だ。情報提供者は、事実をねじ曲げることなく、善意からわれわれに話してくれた」と語った。

 元医師であるオーストリア人のハイム容疑者は、強制収容所で麻酔薬を用いずに収容者を手術したり、心臓に直接ガソリンを注射するなどの人体実験を行い、数百人を死に至らしめた罪で指名手配されている。

 数十人を超える情報提供者へのインタビューはすべて、「ナチ・ハンター(Nazi Hunter)」として有名な歴史家で、同センターのイスラエル支局長でもあるEfraim Zuroff氏が担当した。
 
「あらゆる情報から、ハイム容疑者がプエルトモントからバリロチェの間に潜伏していると考えられる。そこに間違いなく、容疑者発見に向けた鍵を握る人物がいるはずだ。容疑者には、犠牲者からの寄付などにより、31万ユーロ(約5200万円)の懸賞金がかかっている」とZuroff氏は語り、年齢にかかわらず、ハイムには罪を償う責任があると断言した。

「ハイムは男性収容者に対して去勢まで行い、彼らの体の一部をオフィスの装飾品として使った。こうした具体的なエピソードで同情を得ようとするつもりはない。ただ、この犯罪者を逮捕することがいかに重要なことかを理解してほしい」(Zuroff氏)

ハイム容疑者は1962年、ドイツ、オーストリア両政府から戦犯として指名手配されたため逃亡。以後、行方が分からなくなっている。
(c)AFP