【6月16日 AFP】爆弾で窓ガラスは粉々にされ、従業員は恐れをなして中国へ逃げ帰った。しかし、イラクの首都バグダッド(Baghdad)唯一の中華料理店は、そんな中でも店を閉めることがない。

 約半年前に料理店「チャイナ・レストラン」を開店させたCao Luさん(46)は、パートナーのYang Chunxiaさん(46)と共に、バグダッドにおける暴力という日常を「禅」の平常心でやり過ごしてきた。「世界のどこでも、生きていくために暮らしを立てる必要があるのは同じ。バグダッドも例外ではありません」と、テーブルが2つ並ぶだけの店内で、Caoさんは語る。「わたしの目的もみんなと同じでただ1つ、生きていくのに足りるお金を稼ぐこと。わたしに開かれていた道は、バグダッドに来ることだったのです」

 Caoさんは人民解放軍の元兵士。その後製鉄会社に勤め、2年前に一時解雇されたのを機にこの地にやってきた。それまでは中国を一歩も出たことはなかった。

 パートナーのYangさんは、心配する夫と1人息子を中国に残してやってきた。2人は長い伝統をもつ中国人移民の一部に加わったことになる。
 
 前月、近くで起こった爆弾テロの後に、従業員の1人が中国へ帰国したため、注文取りから調理、掃除までをすべて2人でこなす。バスルーム程度の広さしかない店内はランチタイム、イラク人の客でごった返す。天井からは中国の赤いランタンがぶら下がり、壁にはジャッキー・チェン(Jackie Chan)とブルース・リー(Bruce Lee)のポスター。

 1日の売り上げは40-50ドル(約4300-5400円)。大もうけとまではいかないが安定しており、Caoさんが製鉄会社に勤めていた頃の日給の4倍だ。イラク人のパートナーを見つけて事業を拡張することも考えている。

 米コンサルティング会社マーサー(Mercer)が格付けする「世界で最も危険な都市」に最近、ランクインしたバグダッド。中国ではよくあるケースだが、2人は人脈を頼ってここにやってきた。

 Caoさんは最初バグダッドにディスカウント・ストアを構えた。以来、過去5年の間、ほぼ毎日起こる爆発事件に慣らされてきたバグダッドの住民600万人と同様、Caoさんも「死と隣り合わせの生活」に自分を順応させてきた。

「わたしたちは危険の中を生きていかねばならない。でもイラクの人々はいまだにここに住んでいるし、いずれは状況が良くなると彼らは信じています。いや、そう信じる必要があるのです」と、Caoさんは語った。(c)AFP/Benjamin Morgan