【5月21日 AFP】バグダッド(Baghdad)中心部のカラダ(Karrada)地区には、平屋建てのれんが造りのジム、その名も「アーノルド・フィットネス・センター」がある。アーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)米カリフォルニア(California)州知事が80年代に演じた「ターミネーター」にあこがれる筋肉質の男たちの「神殿」だ。

 ジムでは、数十人の男たちがトレッドミルやマシンでカラダ作りにいそしんでいる。壁には筋肉隆々のシュワルツェネッガーのポスターが所狭しと貼られている。ジムのオーナーは、シュワルツェネッガーから個人的に手紙を受け取ったこともあるとのうわさだ。

 銃は持ち込み禁止。武器を所持している者は入口のロッカーに預けなければならない。

 警備会社に勤めるアブドゥル・ラフマン(Abdul Rahman)さん(36)は、4年間このジムに通ったあとに自分のジムを立ち上げたが、2006年冬に激化した宗派間抗争のあおりで閉鎖を余儀なくされ、ジムは避難所に転用された。「ジムを再開したいよ。警備会社の仕事もいいけどジムをやるのもいい稼ぎになるんだ」

 ジムの会費は1か月15ドル(約1600円)。公務員の平均月収が50ドル(約5200円)であることを考えると、破格の出費だ。

 ラフマンさんによると、2003年3月の米軍侵攻後に経済封鎖が解除されてからようやく近代的なマシンが入ってくるようになったという。自動車爆弾、ロケット弾、迫撃砲――いつテロに遭うかわからないといった恐怖とは裏腹に、イラク人の健康意識は高まりつつある。そしてテロの危険のため屋外で運動ができないことが、逆にジムの人気に拍車をかけているという。

 誘拐を警戒して、外国人が一般のジムに通うことはほとんどない。外資系企業はほとんどが社内に専用のジムを備えている。米国大使館やイラク政府があり、厳重に警備されているグリーンゾーン(Green Zone)にはささやかなジョギングコースがあるが、ここも外国人専用だ。

 バグダッドにいくつジムがあるかは不明だが、「ボディービルディング」はイラク社会に根付きつつあると住民らは言う。

 衛星テレビ局の役員だというアイメン・ムハンマド(Aimen Mohammed)さん(24)は、週3回ジムに通う。警官のアフメド・アブドゥラ(Ahmed Abdullah)さん(32)もひと月に1万5000ディナール(約12.5ドル、約1300円)支払ってジムに通う。同僚の多くは走行中の車から銃撃されて命を落とした。

 ただ、ジムは男性専用だ。バグダッドに男女共用または女性専用のジムはない。厳格なスンニ派またはシーア派信者にとって「戒律で禁止されている、または違反している」ものだからだ。

 国営テレビ、アルイラキーヤ(al-Iraqiya)は、ジムに通えない女性たちのために、毎朝短いエアロビクス番組を放送している。収録は巨大な防爆壁に守られたシティーホテルで行われている。インストラクターはイラク人女性3人で、カラフルでゆったりしたトラックスーツを着て、英語のポップミュージックに合わせてダンスのような動きを披露しているという。(c)AFP/Amal Jayasinghe