【8月17日 AFP】ロシアの陸上・女子棒高跳び選手、エレーナ・イシンバエワ(Yelena Isinbayeva)は16日、前日の自身の反同性愛的な発言を弁解する声明を発表し、同性愛者への差別意識はないとコメントした。

 イシンバエワは15日、第14回世界陸上モスクワ大会(14th IAAF World Championships in Athletics Moscow)の女子棒高跳び決勝で金メダルを獲得したが、同日に行われた記者会見で熱弁をふるってロシアの反同性愛法を擁護し、ロシアでは「男は女と、女は男と住んでいる」と話した。

 この反同性愛的な発言が大きな波紋を呼び、人気アスリートの地位を失おうとしているイシンバエワは、発表した声明の中で「私は性的指向に基づいた同性愛者への差別には反対しています。英語は私の母国語ではないので、昨日(15日)お話しした時には誤解をされてしまったと思います」と釈明。しかし謝罪の言葉はなかった。

 現在問題になっているロシアの反同性愛法は、6月にラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領によって成立された。この法律は、未成年への同性愛プロパガンダ(宣伝)行為が刑罰の対象になるというものだが、活動家らは同法が同性愛者の弾圧に繋がる可能性があると見ている。

 ロシア当局は、2014年に同国で開催されるソチ冬季五輪で同国を訪れる者はこの法律を順守しなければいけないというスタンスを示しており、同法が適用される恐れから、五輪をボイコットしようとする動きが世界のあらゆる場所で見られている。

 15日の記者会見でイシンバエワは、所々たどたどしい英語で同性愛について、「ああいうことを奨励することが許されるようになることは、この国にとって恐ろしいこと」と話していた。

「ここ(ロシア)ではすべてが正しくあるべき。われわれの歴史を見ても(同性愛のような)問題はこれまでなかったし、今後もそのようなことがあってほしくない」

 16日に出された表明で、イシンバエワは、「私は他のアスリートの考え方を尊重している。性的指向に基づいてゲイの人たちを差別することは五輪憲章でも禁じられており、私はそういうことはしないと強く主張したい」とコメントした。

 しかし、「人々は、他の国を訪れる場合は特に、各国の法律を尊重するべきだ」と反同性愛法に対する考え方は曲げなかった。

■批判を浴び、地に落ちたイシンバエワのイメージ

 五輪で2度、世界陸上で3度の金メダルに輝き、国際オリンピック委員会(International Olympic CommitteeIOC)の親善大使も務めているイシンバエワは明るい性格の持ち主としても知られ、これまで多くのファンやスポンサーを獲得してきた。

 しかし今回の騒動でこれまで汚点ひとつなかった自身の経歴に大きな傷をつけてしまい、16日の声明によって地に落ちたイメージが少しでも修復されることを目論んでいると見られる。

 イシンバエワの発言には、多くのスポーツ界の偉人からも呆れ声と批判が上がっている。

 陸上・男子400メートルの世界記録保持者のマイケル・ジョンソン(Michael Johnson、米国)氏は、発言について「とても愚かな判断で、とても愚かな見解」だと非難した。

 現在英国放送協会(BBC)のコメンテーターとしてモスクワを訪れているジョンソン氏はまた、「イシンバエワは、絶大な権力を持つ人々からの後援を受けている。その後援者たちが恐らくこのような考え方をしているのだろう」と話した。

 また、2000年シドニー五輪の陸上・7種競技で金メダルを獲得した英国のデニーズ・ルイス(Denise Lewis)氏は、今回の騒動でイシンバエワはイメージだけでなく、懐にも打撃を受けるだろうと話した。

 ジョンソン氏同様BBCのコメンテーターであるルイス氏は、「彼女が世界情勢を理解していないのは明らか」と言う。

「あのような意見を公言する時はもう少し注意した方がいいと、マネジャーが教えていなかったことに驚きを感じる。世界的スターの彼女にとって相当なダメージとなったはず」

(c)AFP/Pirate IRWIN