【1月15日 AFP】東日本大震災の被災者支援を行った日本人スポーツ選手たちは口々に、支援は一方的なものではなく、自分たちが被災者の強さに励まされたと語った。

■選手による義援金の寄付
 
 サッカー、ドイツ・ブンデスリーガ1部のVfLボルフスブルク(VfL Wolfsburg)に所属する長谷部誠(Makoto Hasebe)は、昨年のクリスマスを前に巨大な津波に全てを流された太平洋沿岸の宮城県南三陸町を訪れ、幼稚園再建のため自身の著書の印税とチャリティーイベントでの収入合わせて9500万円を寄付した。

 第15回アジアカップ(AFC Asian Cup 2011)で大会最多4度目の優勝を飾った日本代表の主将を務めた長谷部は、「自分が何か力になれる事があるのではないかと思い訪れるが、逆に子供達の笑顔やパワーに力をもらってしまう」と語った。

 また、米大リーグ(MLB)のシアトル・マリナーズ(Seattle Mariners)で活躍するイチロー(Ichiro Suzuki)も、約1億円と、長谷部と同等の額の寄付を行った。

 男子ゴルフの石川遼(Ryo Ishikawa)は、2011年シーズンの国内ツアーや4つのメジャー大会の全賞金を津波の被災者に寄付すると第75回マスターズ・トーナメント(The Masters Tournament 2011)開幕前に決めてからゴルフが変わったという。

 「責任感というか、やらなくちゃいけないというやりがいを感じました」と語った石川は、2011年はツアー優勝を飾ることができなかったものの、マスターズでは自身最高の20位に入った。

 石川はさらに、バーディー以上の成績を収めるたびに10万円を寄付金に加えるとし、最終的には約1億3350万円を義援金とした。

■被災者への思いを競技につなげる選手

 天皇陛下(Emperor Akihito)が「深く心を痛めています」と述べられた悲劇の1年間、日本は「頑張れ、日本」のスローガンの下で団結し、災難に直面しても不平を口にしない態度で世界各国から賞賛を受けた。

 マグニチュード9.0の地震とそれにより発生した津波により2万人を越える死者を出し、この世代では最悪となる原発の危機に見舞われた東北地方には、至る所から多くの義援金や物資、支援者が集まった。

 2012年ロンドン五輪で金メダル獲得が期待される北島康介(Kosuke Kitajima)と内村航平(Kohei Uchimura)は、震災直後は大災害になす術はないと考えたものの、五輪に向けた活動の中で被災者に触発されたという。

 アテネ五輪と北京五輪の競泳平泳ぎで金メダル2冠を達成した北島は、宮城県を2度訪れチャリティーイベントを開催、「プールを無くした子どもたちと一緒に泳げたことは僕の宝物。来年(2012年)に向けて頑張る原動力になった」と語っている。

 一方、世界体操競技選手権(World Artistic Gymnastics Championships)の男子個人総合で史上初の3連覇を達成した内村は、震災を目の当たりにし、体操競技をやっていて不安な気持ちを抱えたとしながらも、7月に行ったチャリティーイベントでは「心の中で被災者とともに演技している」と語った。

 順天堂大学(Juntendo University)スポーツ健康科学部、スポーツ科学科の中島宣行(Nobuyuki Nakajima)教授は、想像を絶する苦労を経験した被災者たちの存在が、アスリートの「体力的限界」押し上げたのではないかとし、「衝撃が大きなモチベーションとなり、選手らを刺激した」とAFPに対して語った。

■選手から被災者へ届けられた歓喜

 2011年7月に行われた女子サッカーW杯ドイツ大会(FIFA Women's World Cup 2011)で優勝を飾った日本代表は、そのパフォーマンスで最も日本の人々を勇気付けた。

 女子日本代表の佐々木則夫(Norio Sasaki)監督は、準々決勝のドイツ戦を前に、選手たちを鼓舞するため被災地の様子を見せたという。

 そのドイツ戦を1-0勝利し、続く準決勝のスウェーデン戦でも勝利したなでしこジャパンは、決勝ではPK戦の末に優勝の本命だった米国を破った。試合後、米国のGKホープ・ソロ(Hope Solo)は、「何か大きな力が働いていたと強く思う」とコメントしている。
 
 故郷の岩手が震災に見舞われた女子日本代表の岩清水梓(Azusa Iwashimizu)は、母国が苦境に立っている中で負けることは考えられなかったと、雑誌のインタビューに答えた。

 「うまく説明できないのですが、自分より強い、見えない力を感じたことは確かです」

(c)AFP/Shigemi Sato