【12月27日 AFP】2007年の陸上競技界は、2000年シドニー五輪で3個の金メダルを含む5個のメダルを獲得し、米国短距離ランナーの伝説となったマリオン・ジョーンズ(Marion Jones)が、運動能力向上を目的とした薬物使用を認めたことに震撼した。ジョーンズの驚くべき告白は、第11回世界陸上大阪大会(11th IAAF World Championships in Athletics Osaka)でのタイソン・ゲイ(Tyson Gay)の100メートルと200メートルの短距離2冠や、バーナード・ラガト(Bernard Lagat)の1500メートル、5000メートルの2冠達成に影を落とした。

■陸上界に衝撃が走ったジョーンズの告白

 同一大会で最も成功した女性アスリートとなったジョーンズは、輝かしかったはずのキャリアに拭い去れないほどの汚点が残るまでドーピングの影が大きくなり続けるのを目の当たりにした。国際陸上競技連盟(International Association of Athletics Federations:IAAF)はジョーンズに2年間の出場停止処分を言い渡し、国際五輪委員会(International Olympic Committee:IOC)もジョーンズが五輪で獲得したメダルを剥奪した。

 すでに現役引退を表明しているジョーンズは、米連邦地方裁判所でTHG、あるいは「クリア(the clear)」として知られるステロイドを2000年の9月から2001年の7月にかけて使用していたと証言し、長年に渡り否定し続けていたドーピング疑惑に自ら終止符を打った。この証言は、ジョーンズが禁止薬物使用問題において連邦捜査官に対し虚偽の発言を行ったと認めた際に明らかとなったもので、この結果によりジョーンズが偽証罪で投獄される可能性もある。

 陸上競技界にとっては薬物使用が影を落とした一年となった。シドニー五輪の400メートルハードルで銅メダルに輝いたフランスのナマン・ケイタ(Naman Keita)からはドーピング検査でテストステロンの陽性反応が検出され、2年間の出場停止が言い渡された。また、2004年アテネ五輪の棒高跳びで銅メダルを獲得したイタリアのジュゼッペ・ジビリスコ (Giuseppe Gibilisco)は、多くの有名アスリートに対しドーピング用の薬物を供給したとして捜査されているイタリア人医師Carlo Santuccione氏との関係を非難されている。

 その一方で3回の薬物検査を受けなかったとして処分された英国のクリスティーン・オールグー(Christine Ohuruogu)は、出場停止処分を解かれた選手となった。出場停止で放心状態となったオールグーは、世界陸上大阪大会での女子400メートル優勝さえも酷評されたが、最後には英国五輪協会(British Olympic Association:BOA)から下された今後の五輪出場停止処分を覆した。これは、オールグーにとって2008年の北京五輪出場だけに留まらず、年齢や状態が許すのであれば2012年に自国で開催されるロンドン五輪出場への可能性も浮上し、それが実現すればロンドン五輪主催者としてもPRの大きな後押しとなる。

■第11回世界陸上大阪大会、期待された世界新記録は生まれず

 第11回世界陸上大阪大会は、金14個、銀4個、銅8個でメダル獲得数を26個とした米国が他国を圧倒した大会となった。2位に圧倒的な強さの長距離ランナーを擁し金メダルを5個獲得するなどしたケニア、3位にはロシアが入った。

 北京五輪では米国をメダル獲得数トップの座から下ろしたいと意気込んでいる中国だが、大阪で獲得した金メダルが男子110メートルハードルを制した劉翔(Liu Xiang)の1個にとどまり、メダル獲得順位も11位に終わっているため、陸上競技でメダル争いに影響を与えることはできないだろう。

 世界陸上大阪大会では全種目で世界記録の更新はならなかったが、タイソン・ゲイは突出した活躍を見せた。ゲイは男子100メートルを9秒85、男子200メートルを19秒76で優勝し、37秒78を記録して優勝した男子4x100メートルリレーでは米国チームの第3走者を務めた。この活躍でブレークを果たしたゲイは、北京五輪でスターとなる可能性を自ら示した。

 そのゲイのライバルであるジャマイカのアサファ・パウエル(Asafa Powell)は、最高の栄誉となる大阪大会での男子100メートルは3位に終わったものの、9月に行われた国際グランプリ陸上2007・リエティ大会(IAAF Rieti Grand Prix 2007)の同種目予選で9秒74の世界新記録を樹立している。

 男子10000メートルではエチオピアのケネニサ・ベケレ(Kenenisa Bekele)が27分5秒90を記録して大会3連覇を達成したが、男子1500メートルと男子5000メートルを制したのはケニア生まれの米国人中距離ランナー、バーナード・ラガトだった。この種目での2冠を国際大会で達成したのは、ラガト以外では1924年パリ五輪での故パーヴォ・ヌルミ(Paavo Nurmi、フィンランド)氏と2004年アテネ五輪でのヒシャム・エルゲルージ(Hicham El Guerrouj、モロッコ)氏のみとなっている。

 女子5000メートルでは、五輪女王のメセレット・デファー(Meseret Defar)が完璧な走りで優勝を果たした。2007年シーズンのトラック競技で驚くべきパフォーマンスを見せて全レースで勝利し、女子5000メートルと室内女子3000メートルでは世界新記録を樹立、非公認ながらも女子2マイルの世界最高記録を更新したデファーにとってこの優勝は当然だった。

 米国の女子400メートルランナーのサンヤ・リチャーズ(Sanya Richards)は、個人としての世界陸上大阪大会出場は逃したが、ゴールデン・リーグ2007(IAAF Golden League 2007)では6戦全勝を果たし、同じく6連勝を飾ったロシアのエレーナ・イシンバエワ(Yelena Isinbayeva)とジャックポットの100万ドル(約1億1500万円)を分け合って埋め合わせに成功した。(c)AFP/Luke Phillips