関連情報国境なき医師団
【国境なき医師団】
HIV/エイズ患者におけるサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の診断と治療の失敗により、患者は不必要に失明に至っている。国境なき医師団(MSF)の医師らは、12月1日、医学雑誌「PLoS Medicine」上に論文を発表した。論文の著者らは試験的研究の結果、抗レトロウイルス(ARV)薬のおかげで富裕国では劇的に減少したCMV網膜炎が、症状の進行したエイズ患者においてカンボジアで23%、ミャンマーで27%、タイで32%の割合で発症していることを明らかにした。臨床医へスクリーニングの指導を行い、最良の治療を提供出来るようにするための取り組みを行えば、CMVの診断と治療は既存のHIV/エイズ治療プログラムに簡単に取り入れられると、著者らは主張している。
論文の著者に名を連ねるMSFのタイにおける元医療コーディネーターのデヴィッド・ウィルソン医師は述べる。「CMV網膜炎は2分以内に簡単かつ確実に診断することができ、効果的で実用的な治療法も存在します。しかし世界はこの問題に取り組むどころか、CMVが引き起こす死亡例や失明がまるで存在しないかのようにふるまっています。さらに悪いことは、私たちがそれを容認していることです。」
HIVウイルスによって免疫システムが大幅に弱まっている患者がCMV網膜炎に感染すると、3ヵ月から6ヵ月で失明に至る。十分に早い段階でCMV網膜炎を診断し、治療を行えば、ゆっくりしたしかし確実なこの病気の進行を止めることが出来るであろう。しかし、初期段階では何の症状も現れない場合も多いため、CMVは感染の恐れのある全ての患者を系統的スクリーニングにより診断するしかない。
MSFのHIV/エイズ担当アドバイザー、カルパナ・サバパシー医師は、SEVA財団のCMV専門家で眼科医のデヴィッド・ハイデン医師によるミャンマーでのプログラムにおける最近の研究を挙げて次のように語る。「ミャンマーでは感染の危険が高いHIV/エイズ患者の網膜検査を定期的に実施することで、CMVが引き起こす失明から患者を救うことができました。」
しかし、最良の治療法である経口バルガンシクロビルは、多くの国では4ヵ月間の治療で1万米ドル(約109万円)以上の費用がかかる。静脈内ガンシクロビルを用いた代替治療は手順が厄介で、2週間から3週間は1日2回の静脈内注入を必要とし、その後2ヵ月から3ヵ月間も毎日注入が必要となる。3つ目の治療法であるガンシクロビルの眼内注射はさらに煩雑で、医師が何度も患者の片目または両目に注射をしなければならない。患者に大きな負担のかかるこの技術は特別な指導を必要とする上、また目以外の部位で発生し、死に至る可能性のあるCMV感染症の治療には効果がない。
CMV網膜炎の治療をHIV/エイズ治療プログラムに組み入れることは可能だが、感染の可能性のある患者の体系的スクリーニングと、経口バルガンシクロビルの入手手段の確保が条件であると著者は主張する。これが確実となるまで、CMV網膜炎はHIV/エイズの蔓延における顧みられない病気であり続けるだろう。
MSFの必須医薬品キャンペーンのディレクターを務めるティド・フォン・シェーン・アンゲラー医師は語る。「これは悪循環の典型例です。薬の価格が高すぎるので、HIV/エイズ治療プログラムでは患者に対してCMV網膜炎のスクリーニングを行っておらず、そのため膨大な数のCMV患者数も報告されていません。報告される患者数が非常に少ないため、治療薬の価格を下げて入手を確保することが全く優先されていないのです。」
CMV網膜炎は、世界保健機関(WHO)が作成している、資金の乏しい環境におけるHIV/エイズ治療の現行および承認中のガイドラインには記載されていない。
バルガンシクロビルの入手手段はいくらか改善されてはいるが、依然として制限されている。NGOはロシュ社から、4ヵ月間の治療における値引き価格として1281ユーロ(1899米ドル、約20万7千円)を提示されている。しかし、この提示額でも依然として高額であり、CMV網膜炎の問題が最も深刻な多くの国々は除外されている。
この状況では、難しい妥協が強いられる。MSFはタイで現地の提携団体と共に、CMV網膜炎の治療には最適ではないガンシクロビルの静脈内注入と眼内注射の採用を決めた。中国では経口バルガンシクロビルの費用の全額6930ユーロ(10273米ドル、約112万円)を負担しているが、これは中国製の低価格車よりも高額である。
ロシュ社がすべての開発途上国に値引き価格を拡大適用すること、さらに価格を引き下げることが急務である。富裕国では臓器移植を受ける患者のCMV感染予防にのみこの薬が用いられており、中国とタイでの現行価格は、この富裕国での価格に倣ったものである。ロシュ社は、小規模でも利益の多い市場を対象としており、途上国向けのジェネリック薬の重要な供給源であるインドなどの国々においても特許によって自らの立場を守っている。
医学雑誌PLoSに掲載された上述の論文は、眼科医とHIV/エイズ専門家からなる国際的なチームによって執筆され、MSFの臨床経験と、主執筆者デヴィッド・ハイデン医師が調査した他のプログラムに基づいている。ハイデン医師は、サンフランシスコのカリフォルニア・パシフィック医療センターに本部を置くSEVA財団のコンサルタントである。
(c) 国境なき医師団
ユーザー制作のスライドショーをご紹介。無料で簡単な会員登録で見られます。
拡大して見られた人気写真ランキング。会員登録で拡大写真が見られます。登録は無料で簡単。