【6月12日 AFP】トルコ・イスタンブール(Istanbul)の公園で1週間にわたり寝泊まりを続ける、都会育ちで高い教育を受けた若い女性たち──。彼女らは、同国各地で続く大規模な反政府デモの最前線に立っている。

「私たちは、エルドアンが家に居てほしいと願う類いの女性でしょうね」と劇団女優のセビ・アルガン(Sevi Algan)さん(37)は語る。イスラム教徒が多数派を占めながらも世俗主義を貫くトルコだが、デモの参加者たちは、レジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)首相が、自らの保守的なイスラム教的価値観を押し付けていると主張している。

 女性たちの多くは、たまたま反政府運動に身を投じることになっただけだと、喜んで認める。全土に広がる反政府デモの中心地でテントを張ることになるとは、2週間前には思いもよらなかったという。

 しかし、学生や弁護士、会社員など、職業もさまざまなこれらの若い女性たちは、ここゲジ公園(Gezi Park)とその近くのタクシム広場(Taksim Square)の抗議行動に参加する数千人の、優に半分を占めている。彼女らは、公園のプラタナスの木の下で何時間も自分たちの目標について語り、夜通し続く歌や踊りに参加し、必要とあれば、警官が立ち入らない公園の外で警察の取り締まりを警戒するサッカー・サポーターたちとも肩を組む。

 抗議の発端となったのは、ゲジ公園の600本の木を守ろうという小さな開発反対運動だった。5月31日に警察が催涙ガスと放水銃を使った取り締まりに乗り出すと、政府に対する怒りは瞬く間に広がった。トルコ全土でこれまでに4000人が負傷、3人の死者も出ている。

 その大部分がリベラルな世俗主義者を自称する女性デモ参加者の多くは、エルドアン首相率いる与党・公正発展党(AKP)によって自分たちの自由が侵害される恐れが高まる中、権利を守るために立ち上がるときが来たと語る。

 エルドアン首相は3回の選挙で連勝し、着実な経済成長を背景とした11年の選挙ではAKPの得票率は50%近くに達した。しかし反対勢力は、首相が権威主義に傾き、国を二分させていると非難する。

「女性たちは(抗議の)最前線にいる。エルドアンの政策で最初に犠牲になるのは女性だから」と語るセビさんは、自らが反対する政策として、中絶権の制限、事後避妊薬の規制強化、夜間のアルコール類販売禁止などを挙げた。

 エルドアン首相は過去に、すべての女性は3人の子供を産むべきだと発言し、人々の怒りを買ったこともある。ゲジ公園で友人とおしゃべりをしていた元客室乗務員のオズレム・アルティオク(Ozlem Altiok)さんは「私たちみたいな子供が増えてほしいのかしら」と皮肉交じりに語った。

■「首相にイスラムの独占権はない」

 AKPとその支持者たちは抗議の参加者を「悪いイスラム教徒」とみなしているが、デモ隊はイスラムに反対しているわけではないと、セビさんは説明する。「私たちはお酒や討論が好きだけれど、エルドアンとその取り巻きはイスラムの独占権を持っているわけではない。タクシム広場での連帯を見てほしい。これが本当のイスラム教徒よ」

 公園内では食事の無料配布やヨガのレッスン、音楽演奏などが行われ、フェミニストや同性愛者の権利を訴える活動家たちが、ベールをかぶった反資本主義イスラム教徒の横で寝泊まりしている。祭りのような雰囲気と仲間意識が、価値観の違いを容易に越えさせる。

 トルコの政界では女性はまだ少ないが、大学や企業では多くの女性が活躍している。近代トルコ建国の父と呼ばれるムスタファ・ケマル・アタチュルク(Mustafa Kemal Ataturk)初代大統領が実施した解放的な改革によるところが大きい。

 大学で哲学を学ぶエスラさん(21)は「イスラム文化の一部を捨てたいわけではなく、現在ある権利を保持したいだけ」と語る。また、「西洋人女性」をまねたいわけでもないという。「全てを犠牲にキャリアを追求することは、西洋の女性を幸せにしているようには思えない」。友人の銀行員ディジレさん(26)も会話に加わり、「体制が一夜で変わるものじゃないことは分かっている。でも、これは社会革命への第一歩」と語った。

 髪の毛を赤いバンダナで縛った女優のヌルカンさん(35)は、ゲジ公園には何か特別なものを感じると言う。「物事を表現する言葉が見当たらない時があるでしょう。今はまさにそういう瞬間。人々がただ話すのを止めて、行動に出る瞬間だと思う」。ヌルカンさんは周囲の光景を身振りで示しながら、さまざまな人生を歩む人たちが一堂に会していることが誇らしいと語る。「この公園で女性の私たちが野宿していて、嫌がらせも盗みも、ただの1件もない。どうしてだか分かる?あの50%がいないからよ」(c)AFP/Karim TALBI