【3月15日 AFP】インド内務省は15日、同国駐在のイタリア大使を出国させないよう、国内各地の空港当局に警戒態勢を命じた。殺人事件の被告として裁判にかけられていたイタリア人兵士2人が、保釈中にイタリアへ帰国したままインドへ戻っていない事態をめぐり、両国関係は今週に入って緊張の度合いを高めている。

 インド内務省筋によると、同省は15日、出入国管理当局に対し、イタリアのダニエレ・マンチーニ(Daniele Mancini)駐インド大使を「無断で出国させないよう注意せよ」とファックスで通達した。インド最高裁判所が同日、この問題をめぐる次回審問が行われる18日までマンチーニ大使の出国を禁じる命令を出したことを受けた処置という。

■発端はタンカー護衛中の事件

 事態の発端となったのは、昨年2月にイタリア海兵隊の兵士2人がインド沖で、インド人漁船員2人を射殺した事件。この海兵隊員らはイタリア船籍の石油タンカーを護衛中で、近づいてきた漁船を海賊と誤って撃ったと主張している。

 事件の裁判は当初、インド・ケララ(Kerala)州の地方裁判所で始まったが、その後インド最高裁へ移され、特別法廷の設置が命じられた。しかし、マッシミリアーノ・ラトーレ(Massimiliano Latorre)被告とサルバトーレ・ジローネ(Salvatore Girone)被告の2人は、今年2月末に行われたイタリア総選挙で投票するため4週間の保釈を認められて帰国したまま、現在もインドへ戻っていない。

 イタリア外務省は18日、両国間の「外交論争」を考慮し、保釈期間が過ぎても両被告はインドに戻らないと発表した。イタリア政府は、銃撃は国際水域でイタリア船籍の船舶をめぐって起きたものであり、海兵隊員2人はイタリアで裁かれるべきだと主張している。これに対しインドは、自国領海内で起きた殺人事件だと反論している。

■悪化する両国関係、「バナナ共和国扱い」の批判も

 両国の関係は、イタリアの軍用ヘリコプター12機、総額7億4800万ドル(約720億円)規模をインドが購入する取引をめぐる汚職疑惑が持ち上がっていることでも悪化しており、インド政府は契約の破棄さえちらつかせている。

 マンチーニ大使は12日、インド外務省に呼ばれ、海兵隊員2人の身柄を直ちにインド側に引き渡すようランジャン・マタイ(Ranjan Mathai)外務次官から要請された。インド各紙の報道によれば、マンチーニ大使は最高裁で引き渡しを個人的に保証したため、2人が戻らなければ国外追放される可能性もある。

 海兵隊員をインドへ戻さないというイタリア政府の発表に対しインドの主要野党、インド人民党(Bharatiya Janata PartyBJP)は、「イタリアはインドを『バナナ共和国』扱いしている」と強い非難を表明した。インド国内では政府の対応に怒りが広がっており、マンモハン・シン(Manmohan Singh)首相の人形を燃やすなど激しい抗議も起きている。

 こうした強い反発を受け、普段は穏健なシン首相も13日、「(イタリアが)自分たちの約束を守らなければ、わが国とイタリアの関係に重大な結果を引き起こすだろう」と述べた。

■インドは一歩も譲らず

 マンチーニ大使は「両国はともに成熟した民主主義国であり、これらの困難を克服できると確信している」と述べているが、事件が起きたケララ州のオーメン・チャンディ(Oommen Chandy)州知事の「いかなる譲歩もあり得ない。海兵隊員たちはインドで裁判を受けるべきだ」という言葉がインド側の姿勢を代表している。

 インドPTI通信(Press Trust of India)によれば、チャンディ知事は「外交上の地位を利用して、相手の国の最高裁をだます国などあるものだろうか。イタリアがもしも約束を守れないならば、外交上の悲劇となるだろう」と非難している。(c)AFP