【1月11日 AFP】米国への養子縁組を禁止する法案が先月可決されたロシアで、遺伝子疾患を抱える14歳の孤児の少年が、引き取りを申し出ている米国の家族と一緒に暮らしたいとウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に繰り返し訴えているという。

 この少年は、ウラル(Urals)地方のチェリャビンスク(Chelyabinsk)にある児童養護施設に住むマキシム君。地元メディアの10日の報道によると、マキシム君は米国の縁組先家族と7年間にわたって交流を続けており、12月28日にプーチン大統領が法案に署名したとき既に養子縁組の法的手続きに入っていたという。

 チェリャビンスクのテレビ局はウェブサイトで、プーチン大統領に宛ててマキシム君が書いた手紙からの引用として「子供たちを支持してくださったら、心から感謝します。家族を持つ権利を子供から奪わないでください」との文面を紹介した。

 これに対し露政府は即座に、報道は誤りであり、ロシアの国際的評価をおとしめプーチン大統領を困惑させようとする挑発だと反論。政権寄りのタブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダ(Komsomolskaya Pravda)は、マキシム君は実際に手紙を書いたわけではなく、プーチン大統領に伝えたいことがあるかと尋ねたテレビ局の取材に答えただけだとするマキシム君本人の言葉を報じた。

■米国の家族とはネットで交流

 一方、AFPの取材に10日に応じた米バージニア(Virginia)州在住の建設会社オーナー、ミル・ウォーレン(Mil Wallen)さん(51)と妻のダイアナさんは、マキシム君とは交流サイト(SNS)「フェイスブック(Facebook)」やインターネット電話サービス「スカイプ(Skype)」を通じて日々、連絡を取っていると語った。10日だけで5回、マキシム君と話をしたが、突如メディアに注目されたことに興奮しつつ少し困惑もしているようだったという。

 ウォーレンさんもマキシム君から、テレビ取材班を伴った代表団が今秋、養護施設を訪問した際に大統領へのメッセージはと聞かれたので、口頭で答えただけで手紙は書いていないと聞いたという。

 ウォーレンさん夫妻は2011年11月にマキシム君との養子縁組を申請した。夫妻はマキシム君が現在暮らす養護施設と長年関わりがあり、合同メソジスト教会(United Methodist Church)のプログラムを通じて施設の修繕費用に出資してきた他、繰り返しロシアを訪れてもいる。マキシム君のことは、施設にやって来た7歳くらいの頃から知っているという。

 ただ、報道されているマキシム君の遺伝疾患については聞いたことがないと述べ、「年齢の割に背は低いが、それ以外はとても健康なようだ」と話した。

■養子が珍しいロシアの事情

 米国への養子縁組を禁止するロシアの法案は、人権侵害に関与した疑いのあるロシア人を対象とする法律を米国が新設した報復として、議会でほとんど討論されることなく迅速に可決された。しかしロシア国内でも物議を醸しており、首都モスクワ(Moscow)中心部で13日に行われる抗議デモには2万人の参加が見込まれている。

 養子縁組はロシア人同士では行われることがまずないため、同国内ではデリケートな問題だ。旧ソ連時代には、恵まれない生い立ちの子供たちは全員、政府の施設で育てられ、そうした施設の多くは現在もロシア各地で存続している。

 一方、ロシア人の子供が外国の家庭の養子となる場合、米国は最大の縁組先で、記録によれば2012年だけで1000件の養子縁組が成立している。(c)AFP