【6月5日 AFP】米国民にモルモン教徒の大統領を受け入れる準備はあるのだろうか?

 今秋の米大統領選の共和党指名候補にミット・ロムニー(Mitt Romney)前マサチューセッツ(Massachusetts)州知事が確定したことによって、その信仰が注目される争点として浮上してきた。

 200年近い米国史上、大政党の指名候補となったモルモン教徒はこれまで存在せず、ロムニー氏の指名確定は建国以来の快挙といえる。しかも、キリスト教福音派の影響が色濃い共和党で、モルモン教徒として予備選を勝ち抜いた異色の候補だ。

 ホワイトハウスへの道を目指したモルモン教徒は、ロムニー氏が初めてではない。創始者のジョセフ・スミス(Joseph Smith)氏自ら1844年に立候補しており、また今回の予備選でもモルモン教徒の多いユタ(Utah)州のジョン・ハンツマン(Jon Huntsman)元州知事が名乗りをあげていたが、1月に撤退を決めている。

 モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会、Church of Jesus Christ of Latter-day Saints)に厳しい視線が向けられてきた背景には、教徒以外は神殿内に立ち入れないなど、秘密主義とも取れるその伝統にある。モルモン教については宣教師による世界的な伝道活動や、過去に一夫多妻制が認められていたこと、さらにはアルコールやタバコ、カフェインといった嗜好品を厳格に禁じる教義などがよく知られている。全米に600万人いるモルモン教徒の4人に3人は、自分を保守的だと考えている。

■難関は共和党の予備選だった?

 ロムニー氏は自らの信仰について、他のキリスト教徒と同様に信心深いと語る以外、あまり触れたことがない。5月上旬に行われた米最大のキリスト教系大学、リバティ大学(Liberty University)の学位授与式では「あなたがたと私のように異なる信仰を持つ人間同士」がいかに「共通の目的の下に集える」道を見いだすことができるかを説き、福音派に訴えかける演説をした。

 共和党内で影響力の強い福音派の中には、モルモン教をカルト宗教視する者もいる。さらに米ブルームバーグ・ニュース(Bloomberg News)が行った3月の世論調査では、米国人の3人に1人がモルモン教に「好ましくない」イメージをもっているとの結果が出た。

 しかし、ヒューストン大学(University of Houston)のブランドン・ロッティングハウス(Brandon Rottinghaus)准教授は、米国民はモルモン教徒の大統領を受け入れる準備ができていると語る。「福音派の有権者の中には、モルモン教をキリスト教の一派として認めない層もわずかにいるだろう。だがロムニー氏は、信仰について語らずに予備選を乗り切るという難関を、既に乗り越えている」

   「史上初となるモルモン教徒の大統領候補」という側面は、前回の大統領選が「初物尽くし」だったことから、そこまで突出した感はない。08年大統領選では史上初の黒人大統領が民主党から誕生し、初めて女性の副大統領候補が共和党から登場した。さらに民主党には初の女性大統領候補を擁立する可能性もあった。「どちらの党の支持者も、予備選で多様な候補者の顔ぶれを目にすることにもはや慣れている」とロッティングハウス氏は説明する。

■本選でロムニー氏の信仰は「問われない」、争点は経済政策

 いよいよロムニー氏は、民主党のバラク・オバマ(Barack Obama)現大統領との対決へと向かう。両者が選挙戦の争点とし、お互いを批判しているのは経済政策だ。

 ワシントンを拠点に活動する広報専門家で自らもモルモン教徒のアーロン・シェリニアン(Aaron Sherinian)氏は、ロムニー氏の指名獲得について次のように述べる。「私たち(モルモン教徒)が何者で、何を信仰しているのかを語る絶好の機会だ。しかし、今回の大統領選の争点は宗教ではない。争点は皆の家計がどうなっているかだ」

 1988年大統領選への出馬経験があるキリスト教右派の米テレビ伝道師パット・ロバートソン(Pat Robertson)師は、自身の宗教番組「700クラブ(The 700 Club)」で、ロムニー氏の信仰はもはや問題ではないと語った。「彼のモルモン教信仰に懸念を抱いている人の数は、幾分減っているように見える。候補者はオバマ氏とロムニー氏2人で、イエス(・キリスト)対誰かなのではない」

(c)AFP/Michael Mathes