【2月6日 AFP】イスラエルがイランの核施設を攻撃するとの臆測がここに来て高まり、2期目を狙うバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領への圧力となっている。

 オバマ大統領は5日、イスラエルがイランの地下核施設を攻撃する決断をしたとは考えていないとの見解を示し、広がる憶測を批判。「空前の」厳しい制裁がイランに苦痛を強いていると効果を強調した。

■「年内イラン攻撃」はハッタリか?

 イラン攻撃をめぐる憶測が注目を集めたきっかけは、イスラエル情報機関に詳しいジャーナリストのローネン・バーグマン(Ronen Bergman)氏が1月、イスラエルが年内にイランを攻撃するとの記事を米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)に発表したことだ。

 イスラエルのエフド・バラク(Ehud Barak)国防相はこれに呼応するように、イランに対して適切な時期に何らかの行動を起こすよう米政府に求め、「『後で』と言う者は、その『後』が来たときには手遅れだと気付くだろう」と述べた。

  さらに米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)のコラムニスト、デービッド・イグネイシアス(David Ignatius)氏が、「イスラエルは4月か5月、または6月にイランを攻撃する可能性が高い」とレオン・パネッタ(Leon Panetta)米国防長官が考えているとの記事を発表。パネッタ長官は詳細は述なかったものの記事内容を否定せず、イスラエルの行動をめぐる憶測は深まった。

 専門家らは、イスラエルがイランに圧力をかける手段として好戦的な発言を用いている可能性があると指摘する。地政学的リスク分析専門のコンサルティング会社「ユーラシア・グループ(Eurasia Group)」のイラン専門家、クリフ・カップチャン(Cliff Kupchan)氏は、「米議会と大統領に追加制裁を採決させ、既に決定した制裁を迅速に実行させようとするイスラエルの圧力は功を奏している」と分析する。

 また、イスラエルによるとされる2007年のシリア原子炉への攻撃など過去のイスラエルの軍事攻撃は威嚇なしで行われたことから、米ワシントンの観測筋の中には、今回のイスラエルの発言ははったりだと判断する者もいる。

 一方、イラン攻撃は報復ミサイル攻撃や親イランのテロ集団による攻撃など深刻な結果を招きかねず、イスラエルの指導者らはまだ決断する準備が整っていないという見方もある。

■大統領選前に弱まる米オバマ政権、イスラエルが利用

 一連の発言や臆測は、米オバマ政権とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相の間に横たわる溝を改めて浮き彫りにした。

 オバマ大統領の対イラン政策に関する新著を出版したイラン専門家のトリタ・パルシ(Trita Parsi)氏は、米政府が対イラン圧力を強める中、イスラエルの好戦的な発言にはイラン当局を動揺させる効果があるかもしれないと述べる一方、制裁で核開発を中止しなければ戦争だと脅す手法は大きな博打(ばくち)だとも指摘する。危機に際してイスラエルやイランがどう動くかが不確実なためだ。「オバマ政権は、自分たちには制御不能な部分があることを知っている」(パルシ氏)

 イスラエルが単独軍事攻撃に踏み切れば、米国の戦略にもオバマ大統領の政治的な立場にも、重大な影響を及ぼすことになる。米国が再び中東で大きな戦火に巻き込まれることになるのは確実だ。原油価格は急騰し、ようやく軌道に乗り始めた米経済の回復基調も妨げられ、雇用の伸びも鈍化するだろう。これらはいずれも、オバマ氏の大統領再選には不可欠な要素だ。

 米政治に詳しいイスラエルの指導者らは、もちろんこの点を理解している。また、再選をめざすオバマ氏が圧力に弱くなっている可能性にも気付いている。

 米シンクタンク「ニューアメリカ・ファウンデーション(New America Foundation)」のダニエル・リービ(Daniel Levy)氏は、イスラエルの強気な発言や危機感は、イランの核開発計画の急速な進展が引き金になったものではなく、政治的な要因によると指摘する。「これ(イラン攻撃)がほぼ最優先課題として扱われている唯一の理由は、米大統領選だ。(イスラエルは)選挙の翌年に大統領職にある人物が、選挙の年の大統領と比べてはるかに強い立場から決断できることを知っているのだ」

 共和党はこの状況を最大限に利用する構えだ。共和党指名候補を争うミット・ロムニー(Mitt Romney)前マサチューセッツ(Massachusetts)州知事は、オバマ大統領の対イラン政策を「妥協」と批判し、オバマ氏の外交成果を傷付けようとしている。(c)AFP/Stephen Collinson

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