【1月27日 AFP】2012年米大統領選で共和党候補指名を争うニュート・ギングリッチ(Newt Gingrich)元下院議長が「2020年までに月に基地をつくる」と宣言し、専門家たちから「彼は別の星に住んでいるのでは」と失笑を買っている。

 ギングリッチ氏は25日、フロリダ(Florida)州で行われた集会で、自分が大統領になれば「2期目の終わりまでに月に人類最初の恒久基地ができる。それはアメリカの基地であるはずだ」と述べた。

 この発言は、聞こえるほど突飛ではない。米航空宇宙局(NASA)は2006年、太陽系探査のための基地として、2020年前後を目標に月の南極に有人拠点をつくる計画を発表した。また、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)前米大統領の任期中には、2010年のスペースシャトル計画終了後の有人宇宙探査計画「コンステレーション(Constellation)計画」を策定している。

 だが、08年の世界金融危機を境にこれらの「計画」は「夢想」に変わってしまった。バラク・オバマ(Barack Obama)大統領は10年、コンステレーション計画を打ち切り、11年のスペースシャトル引退後の米国は国際宇宙ステーション(International Space StationISS)への往復をロシアに頼っているのが現状だ。

■「月よりも米国内に住宅を」、ライバルのロムニー氏

 ギングリッチ氏のぶち上げた「壮大な構想」には、NASA周辺に漂う消沈ムードに付け込んだ人気取り発言だとの批判もある。だがギングリッチ氏は、第16代米大統領エーブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)やジョン・F・ケネディ(John F. Kennedy)元大統領、人類初飛行に成功したライト兄弟(Wright Brothers)ら米国の偉人と自らを並べ、「そういう非難は受け止める。私は米国人であり、米国人とは本能的に壮大なものだ」と胸を張る。

 ギングリッチ氏は、NASAの予算の10%を民間宇宙産業促進のためのインセンティブに回すべきだとも主張している。この点は、NASA周辺の関係者にとっては微妙に響くだろう。

 こうしたギングリッチ氏の発言に対し、共和党の予備選を戦う対立候補、ミット・ロムニー(Mitt Romney)前マサチューセッツ(Massachusetts)州知事は26日、「私は月に拠点など考えていない。そんなものをつくれば、コストは何兆ドルまではいかずとも、何千億ドルはかかるだろう。それよりも私は米国内の住宅事情の立て直しを優先する」と述べた。

 ■NASA関係者は「全くのファンタジー」とばっさり

 一方、NASA諮問委員会メンバーでジョージ・ワシントン大学(George Washington University)宇宙政策研究所所長のジョン・ログスドン(John Logsdon)名誉教授はAFPの取材に、「2020年までに月基地を、などというのは全くのファンタジーだ」と一刀両断した。

「1960年代に月に到達した際には、アポロ計画全体予算の4%強のコストがかかった。現在のNASAの予算はその10分の1のレベルだ」

 ログスドン氏はギングリッチ氏の発言について、「現実離れ」していて「ほとんど無責任」であり、「技術的にも政治的にも実現可能ではない」と切り捨てている。(c)AFP/Andrew Gully