【12月22日 AFP】北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記の死去を受け、「弔辞」を送るべきか、送らないべきか。この政策的に高度かつ外交儀礼面でもさじ加減の難しい問題をめぐり、世界の主要国の態度は真っ二つに割れている。

 多数の人々を死に追いやった絶対的独裁者の急逝に際し、欧米諸国は弔意を表す言葉を慎重に避け、代わりに「北朝鮮国民」へ向けた声明を発表した。だが、米国の同盟国で、核保有国・北朝鮮の照準内に位置し同国と緊張関係にある韓国と日本は、ともに弔意を示した。

 北朝鮮最大の同盟国・中国はただちに金総書記の死を悼む声明を発表し、温家宝(Wen Jiabao)首相が北京(Beijing)の北朝鮮大使館を訪問した。公式な弔辞を送った国々にはロシア、イラン、インドなどが含まれる。

■故金日成主席の時にも弔辞論争

 ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官は、死去の報から1日かけて練り上げた声明の中で、北朝鮮の新指導者に「平和の道」を受け入れるよう求めたが、「われわれは北朝鮮国民の幸福を願う。われわれの思いや祈りは、この困難な時にある彼らと共にある」と述べるなど、指導者よりも北朝鮮国民へと焦点を置いた。この声明について、ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)国務省報道官は「弔意や哀悼を示す言葉(condolences)は今回、適切だと自分は考えなかった」と述べている。

 北朝鮮指導者の死去と「弔辞」に関しては、1994年に金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)国家主席が死去した際にも論争を呼んだ。

 米国は当時のビル・クリントン(Bill Clinton)大統領(民主党)が「米国民を代表して、北朝鮮国民に心から哀悼の意を表する」と述べた。また報道陣の前で、米国との対話を支持してくれたと金日成氏に「深い感謝」を語る場面もあった。

 しかし、その2年後の大統領選でクリントン氏再選の前に散ることになる共和党のボブ・ドール(Bob Dole)上院議員は、朝鮮戦争で3万5000人の米国人が殺されたことをクリントン氏は忘れていると批判。これに民主党議員らが、過去に共産主義の独裁的指導者である旧ソ連のヨシフ・スターリン(Joseph Stalin)書記長や中国の毛沢東(Mao Zedong)主席が死去した際、共和党の大統領たちが弔辞を送っていると反撃し、論争となった。

 今回、21日の北朝鮮国営メディアは、民主党の元大統領、ジミー・カーター(Jimmy Carter)氏から後継者の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)氏に弔辞が届いたと報じている。ただ、カーター氏のNGO「カーター・センター(Carter Center)」からは、これに関するAFPの問い合わせへの返答はない。

■解釈の幅を残した米国の声明

 元朝鮮半島和平担当特使のジャック・プリチャード(Jack Pritchard)韓国経済研究所(Korea Economic Institute)所長は、今回のクリントン国務長官の声明について、さまざまな解釈の余地が残るよう「非常によく練られた」もので、北朝鮮の指導者たちが弔辞と受け取りたければそう見なすこともできる内容だと評した。

 一方、米シンクタンク「外交問題評議会(Council on Foreign Relations)」のスコット・スナイダー(Scott Snyder)上級研究員は、北朝鮮指導部が94年と今回の米国の声明を比較するリスクがあると指摘する。同氏は今回、米国が弔辞を送らないことは「状況が全く違うので、正当化されると思う。しかし北朝鮮側が、前回よりも踏み込まずに終わっていると見る可能性もある」と言う。

「金王朝」への個人崇拝を巧妙に築き上げてきた北朝鮮指導部にとって、公式声明の重要度は相当高い。

 もっとも、北朝鮮が28日に行う金総書記の告別式に外国政府代表を招待しない方針を示したことで、各国政府は新たなジレンマを避けることはできそうだ。外交問題評議会のピーター・ベック(Peter Beck)氏は、北朝鮮が各国政府に招待を断られる以前に招待しないと表明したことは、北朝鮮の意識が他国からのメッセージよりも、国内情勢に集中している表れだと分析している。(c)AFP/Shaun Tandon