【12月22日 AFP】北朝鮮・朝鮮中央テレビのアナウンサーが涙ながらに訃報を伝えるまで、世界は――最も近しい同盟国である中国でさえ――金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記(享年69)の死に気付かなかった。

 訃報が報じられたのは、死後2日が過ぎた19日。各国情報機関が金総書記の死を察知できなかった事実は、北朝鮮がいかに未知の存在かを示している。日韓、および同盟関係で両国の防衛義務を負う米国は、国際社会から孤立し、貧困にあえぎながらも重武装する北朝鮮の動きを注視している。

■こわごわと「金魚鉢をのぞく」国際社会

 米ジョージ・W・ブッシュ前政権で朝鮮半島問題の最高顧問を務めたビクター・チャ(Victor Cha)氏によると、後継者となる三男の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)氏については、ほとんど知られていない。「金魚鉢をのぞき込んで、みんな何が起こるか知りたいと思っているが、誰も指を入れてみようとはしない」(チャ氏)のが現状だ。

 元朝鮮半島和平担当特使のジャック・プリチャード(Jack Pritchard)韓国経済研究所(Korea Economic Institute)所長は、北朝鮮の体制崩壊の可能性が高いと考えており、それゆえコンティンジェンシー・プラン(不測の事態を想定した計画)の準備が緊急優先事項だと語る。

 プリチャード氏は近い将来の北朝鮮情勢について、当面は平穏が保たれるが、何事にも優先される強力な軍部が、朝鮮人民軍大将の称号を与えられたといっても若い正恩氏を尊重するかどうかは疑問だとみる。故総書記はこの問題に気づいていたため、朝鮮労働党内での正恩氏の序列を確定させようと腐心していたが、その結果は先行き不透明だというのだ。
 
 故総書記の「先軍政治」を正恩氏が撤回し、「軍事は二の次」といった新たなスローガンを掲げる見込みはほぼないと、プリチャード氏は述べる。それどころか、たとえ短期間でも軍部が正恩氏を操り、実効支配する可能性の方があり得るという。

■米国の影響力には限界、真の相手は韓中

 しかし、米国としては少なくとも食糧援助などを通じて米朝関係の円滑化を図るべきだというのがプリチャード氏の主張だ。金総書記死去が発表されたのは、危機的な北朝鮮情勢のさらなる悪化を避けたい米バラク・オバマ政権が、低レベルでも関係をつなぎとめる戦略の一環として食糧援助の詳細を詰めていた矢先だった。

 オバマ政権の対朝アプローチは慎重だ。金総書記の死去に際しても、同盟国との協調点を探り、正恩氏に「平和への道」を期待するといった表現に留め、直接弔意を示すことを避けた。野党・共和党からは、北朝鮮外交における最終目標は体制変革なのだから、正恩氏の支配を安定させる政策はとにかく避けるべきだという声さえある。

 だが、停滞している北朝鮮核問題をめぐる6か国協議で、米国の東アジア太平洋問題担当国務次官補を務めたジェームズ・ケリー(James Kelly)氏は、米国が及ぼせる影響には限界があり、6か国協議が再開しても北朝鮮は核開発をあきらめないだろうと指摘する。「近い将来、北朝鮮が後継体制を整えるまでの少なくとも数か月間は、米国にできることはたいしてない。正恩氏がたとえ改革者だとしても、体制を変えるためではなく、世襲するために今の地位に置かれているのだ」

 またケリー氏は次のようにも述べた。「『朝鮮民主主義人民共和国』と対峙する真の相手は、中国と韓国である点を米国は理解する必要がある。米国は、北朝鮮が韓国との深刻な問題に向き合いたくないときに、焦点をそらす対象として利用されているのだ」

 北朝鮮と韓国は国際法上は現在も交戦状態にあり、韓国を米国が同盟で支えているのに対し、北朝鮮を政治的・経済的に支援しているのは中国だ。その中国は、北朝鮮体制が崩壊すれば数百万人の飢えた難民が国境を越えて来て、やがて朝鮮半島の南北が1つの米国の同盟国と化す可能性を危惧している。

 プリチャード氏は言う。「北朝鮮が生き残るにしても崩壊するにしても、運転席でハンドルを握っているのは中国だという基本的な事実を避けては通れない」(c)AFP/Shaun Tandon