【10月24日 AFP】バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は21日、イラクに3万9000人が残っているイラク駐留米軍を、2011年末までに完全撤退させると発表した。中東専門家らは、イランはイラクの政権中枢を中心に及ぼしている影響力を強めていくだろうと指摘している。

 ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官は23日、米CNNとのインタビューの中で完全撤退後も米国はイラクへの関与を続けていくと述べた上で、中東各地に展開する米軍の存在やトルコとの同盟関係についても言及して、この点を「見誤らないように」とイランをけん制した。

 米政府は、イランがイラク政府の政治をかく乱し、イラク南部で米軍を狙う武装グループを訓練・支援してきたとして、繰り返しイランを批判してきた。イランの国教であるイスラム教シーア派はイラク政府の主流派を占めている。

 2003年の米軍イラク進攻の前にはイラン・イラク戦争(1980~88年)もあったが、いまイランとイラクは二国間貿易から観光、そしてなにより宗教の分野で良好な関係を築いている。イランのマフムード・アフマディネジャド(Mahmoud Ahmadinejad)大統領も、イランとイラクは「特別な関係にある」と指摘し、両国関係に「変化が起きるだろう」と語っている。

■「イランとイラク周辺のアラブ各国、イラク政治への介入強める」 専門家

 英経済誌エコノミスト(Economist)の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(Economist Intelligence UnitEIU)」のイラク専門家、アリ・サファル(Ali al-Saffar)氏は、イランの影響はイラクの広い範囲に及んでいるが、特にイラク南部にイランの影響を強く受けた地域があると指摘する。

 サファル氏は、イランは2003年以降「卵を複数のバスケットに分散させる」べく、イラク各地で影響力を強める動きを進め、現在、その成果が現れていると説明した上で、米軍撤退後のイラクで米国の影響力は弱まり、イランと、イラク周辺のアラブ各国はいずれも、自国にとって望ましいイラク国内の政党を支えるため介入を試みるだろうとの見方を示した。その際、イランはイラク国内にいる協力者を利用し、アラブ各国は自らに都合のよい候補者を使うだろうとサファル氏は述べた。

 現在、米国はイラク国内16か所の基地に3万9000人の兵員を駐留させている。最も多かった時期には、505か所の基地に計17万人近くの兵士が駐留していた。

 米軍完全撤退後にその穴を埋めるのは、米国の在外公館として世界で最も大きいバグダッド(Baghdad)の米大使館と、南部バスラ(Basra)とクルド人自治区の首都アルビル(Arbil)にある米領事館だ。

 対外有償軍事援助や限定的な軍事訓練を行う米大使館防衛協力室(Office of Security Cooperation)には200人未満の兵員が残る。レオン・パネッタ(Leon Panetta)米国防長官は、米政府は2011年以降も軍事訓練についてイラクと交渉すると述べている。

 イラクで米国のプレゼンスが低下する懸念から、米国の保守派は米軍撤退後の空白をイランに埋められかねないとして、イラク駐留米軍の完全撤退を厳しく批判している。(c)AFP/Prashant Rao