【10月21日 AFP】米ニューヨーク(New York)・ウォール街(Wall Street)の占拠を続ける人びとは、雨にも負けず、警察と対峙してもひるまず、人生の不安に立ち向かって路上に繰り出しているが、その彼らにとって最も難しい課題は恐らく「デマンド・ワーキング・グループ(要求作業部会)」と呼ばれるものに参加することだろう。

 全世界に広がった抗議行動 「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」が始まって2か月になろうとする今、彼らはメディアや著名評論家たちから強いプレッシャーをかけられている。通常の抗議運動に付き物の「要求項目」を掲げよ、というのだ。

 しかし、ウォール街に近いズコッティ公園(Zuccotti Park)を占拠し続けるデモ参加者たちは、このプレッシャーを頑としてはね返している。新たに配られているビラには「1つや2つで済む単純な要求などない」と書かれている。

 バラク・オバマ(Barack Obama)大統領や野党・共和党が「ウォール街を占拠せよ」について言及し、この運動の重要性が増すにつれ、「要求項目は何か」という問題もクローズアップされてきた。だが、要求項目案を作成すべき作業部会の進展はおぼつかない。冷え込んだ17日の夜、公園内で開かれるはずだったある作業部会のミーティングに現れたのは、わずか2人だった。

■一枚岩ではない運動の横顔

 その1人、当初サンフランシスコ(San Francisco)で「ウォール街を占拠せよ」運動に参加し、それから本家ニューヨークへやって来たベテラン運動家のジャネット・コブレン(Janet Kobren)さん(68)は、次のように語る。「要求を作ることはできる。でも今まで見てきた限り、連帯ができてはデモをし、要求を訴え、でも最後はただ家へ帰る、これの繰り返しだった」

 柵で囲まれた政府庁舎の前に立っては特定の項目を要求する類の人びとについて、コブレンさんは「一体、誰と話そうとしているのか。親に向かって『あれをして、これをして』と言っているティーンエージャーのよう」と手厳しく批判する。一方でコブレンさんが称賛するのは、「ウォール街を占拠せよ」が掲げる「純粋な」運動観だ。すなわち「政府や金融業界が腐敗している時に、それらを相手に変革を要求しても無意味だ」という考えだ。

 他の「作業部会」のメンバーたちにも焦りは見えない。シカゴから来た運動家、ジェームズさんは「作業部会のプロセスは、このグループの中に存在する様々な物の見方を理解し、考察を深めるのに役立っていると思う」と話す。面白いことに「要求を作っているグループの中で『要求って何だ?』と話し合うことさえある」という。「どういう要求が民主的な文化の発展を目指すものなのか、それを理解すること自体が、要求の一部でなければならない」からだ。

■「寡頭政治の米国、目指すは民衆による民主主義」

 ズコッティ公園の中央、「シンクタンク」と書かれたテーブルの周りでは、もう少し行動直結型の取り組みがされていた。通りがかった人たちに、何を要求したくてズコッティ公園へ来たか、それを解決するにはどうしたらよいと思うかなどをカードに書いてもらうのだ。

 受付をしていたティム・ウェルドン(Tim Weldon)さんによると、毎日箱いっぱいにたまったカードのメッセージを、NPO有志がパソコンに打ち込んでいる。この日たまっていたカードを見るだけでも、「ウォール街を占拠せよ」運動に反映されているありとあらゆる不満を知ることができる。

「誰もが健康にいい自然食を食べられるのではなく、一定の収入がある人だけなのはおかしい」「経済的公正を。社会変革の継続を」といったメッセージから、「学生ローン」「気候変動」「もっとましな仕事を」「老人ホームを作って」などといった要求まで。意見箱の中にはこう書かれたものもあった。「抗議ばかりしていないで、具体的な提案をすべきだ」

 1枚1枚カードを手にとって読んでいたジェード・ヘイルマン(Jade Heilmann)さん(27)は、明確な「ゴール」なくして運動が単にウォール街や政治的エリートたちへの怒りだけのように見なされてしまうと、広範囲に勢いづいた運動が失速してしまうと懸念する。しかし、「ウォール街を占拠せよ」運動が要求項目を発表していないことを問題だと思う者は、この運動の中には実はほとんどいない。

 泊まり込み占拠のメディア受付でボランティアをするパトリック・ウィルソン(Patrick Wilson)さんは、ゴールは単純な1つの要求で言い表せる範囲を越えたところにあると述べた。「米国にあるのは少数者による寡頭政治。僕たちに必要なのは、民衆による民主主義だ。ウォール街から始めて全米に広げ、米国中を占拠して、ここへ戻る。唯一の要求は『この国を民衆の手に返せ』ということだ」 (c)AFP/Sebastian Smith