【2月12日 AFP】エジプトを30年間近く統治したホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)政権の崩壊は、まさに革命といえるものだが、新体制を率いる軍最高評議会(Supreme Council of the Armed Forces)議長のムハンマド・フセイン・タンタウィ(Muhammad Hussein Tantawi)国防・軍需生産相(75)は、まったく「新顔」とはいえない存在だ。

 陸軍元帥のタンタウィ議長は、1956年、67年、73年の第2次~第4次中東戦争に従軍しイスラエル軍と戦った経験を持ち、91年からムバラク大統領の強権体制下で国防相を務めてきた。政治的駆け引きにも長け、そしてムバラク氏と長らく近しい関係を保ってきた人物だ。 

 11日、権力を掌握した軍部はただちに、ムバラク大統領を辞任に追い込んだ抗議デモの参加者らにメッセージを発し、「国民の意志」を尊重することを保証した。とはいえ、その指導者であるタンタウィ氏は、変革を好む人物とは見られていない。

■「変化を嫌う」人物像――米外交公電評

 内部告発ウェブサイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」が公開した米大使館の外交公電の中に、2008年3月付の在エジプト米大使館によるタンタウィ氏評がある。この外交公電は、「彼(タンタウィ氏)とムバラク氏は生涯、体制安定と現状維持に注力することばかり考えている。何か異なったことしようというエネルギーも意向も世界観も持ち合わせていない」と忠告している。

 また、タンタウィ氏は「魅力的で上品」だが「老齢で変化を嫌う」人物であり、改革者としての資質はほとんど無いと評している。

■「新世代の英雄」担ぐ若者たちの反応は?

 エジプト国民にとって軍は、反政府デモ隊の鎮圧に当たった内務省管轄の警察より暴力的でなく、汚職も少ないと受け止めれており、デモ参加者の中にも軍を称賛する声は多い。したがって、当面、民主化を求める市民の声に応じることになるタンタウィ氏も、国民との良好な関係を維持するかもしれない。

 しかし、抗議デモの原動力となってきた若者世代は、すでに「第4次中東戦争の英雄」であるタンタウィ氏とは異なる自分たちの英雄を持っている。彼らは、インターネットで活動するサイバー活動家やチュニジアの大規模デモに刺激を受けて活動してきた。

 デモの中心地タハリール広場(Tahrir Square)で今週、若者たちの喝采が最も大きくなったのは、米SNSフェースブック(Facebook)を活用してオンライン抗議活動を活発に行ってきたグーグル(Google)のマーケティング部門幹部のワエル・ゴニム(Wael Ghonim)氏(30)に対してだった。

 少なくとも、エジプト陸軍の謹厳な将官であり、ムバラク体制のアパラチキ(中枢幹部)だったタンタウィ氏の経歴は、若者たちの支持する人物像とはまるで重ならないといえる。(c)AFP/Dave Clark