【9月13日 AFP】荒海でのクジラ撃ち、猛暑による森林火災の消火活動、シベリア東部2000キロのテスト走行――ロシアきってのタフガイ、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相(57)をもってしても、この夏は並みの行動日程ではなかった。

■大自然と対峙するマッチョPR対「ハイライトはボノ」

 ロシアのメディアや観測筋は、プーチン首相のシベリア走破について、来る2012年の次期大統領選へ向けた選挙キャンペーンの始動だ、とみる。この大統領選の勝者は次の10年以上にわたってロシア政権の頂点に立つ可能性がある。露紙コムソモリスカヤ・プラウダ(Komsomolskaya Pravda)は、プーチン首相が「次期大統領選へ出馬する感触は、日ましにどころか、1時間ごとに強まっている」と報じた。

 一方、現大統領ドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)氏(44)はこの夏、大自然との対峙には見向きもせず、もっと地味な職務をこなす姿を露出した。記録的な干ばつが農業へ与えた打撃と格闘しながら、メドベージェフ大統領が迎えた夏のハイライトは、ロックバンドU2のボーカリスト、ボノ(Bono)との歓談だった。

 12年大統領選について、プーチン首相もメドベージェフ大統領も、相手が出馬するならば自分は出馬しないと示唆しながら、出馬の可能性を完全には排除していない。

 リベラル系紙ネザビシマヤ・ガゼータ(Nezavisimaya Gazeta)が引用した大統領府筋の話では、プーチン氏のシベリアツアーによって大統領府の顧問たちは、広報戦略の見直しを迫られたと言う。そこで問題になっているのは「権威主義的なカリスマ性に、こつこつした官吏タイプという図式で対抗できるのか。仮にこれをよしとして、有権者に好ましく見えるか」という問いだ。

 メドベージェフ大統領の行動がプーチン氏ほど派手でないのは、大統領が選挙キャンペーンを始動していないからだと、政治学者グレブ・パブロフスキー(Gleb Pavlovsky)氏は言う。「わざと選挙前の動きから自らを遠ざけている。だが、近々大きな変化は必ずあるだろう」

■メドベージェフ大統領、本心は続投か

 米系シンクタンク、カーネギー国際平和財団モスクワ・センター(Carnegie Moscow Centre)のアナリスト、マリア・リップマン(Maria Lipman)氏は、メドベージェフ大統領の真意を憶測することは危険だが、再出馬を望んでいるのではないかと語った。「もう1期、続投する権利は法的にある。プーチン首相の一大PRキャンペーンを見て、心穏やかとは思えない」

 憲法で大統領の連続3選が禁止されているロシアで、プーチン氏は2期務めた後、08年の大統領選で後継者に長年の盟友メドベージェフ氏を任命。就任したメドベージェフ氏の最初の使命は、大統領の任期を4年から6年へと延長する改憲作業だった。これはプーチン氏が再び大統領への復帰が可能となった場合の布石とみなされた。

 世論や専門家の間では、「官僚タイプのメドベージェフ氏に、自分を抜てきしたプーチン氏の人気をしのぐつもりはない」とする一方で、「メドベージェフ氏も権力の味を覚え、プーチン氏からの独立を試みている点は明らか」だという見方が多い。

 米誌ニューズウィーク(Newsweek)ロシア版によると、プーチン首相の最近の一連の行動に大統領府は合意しておらず、特に8月の森林火災鎮圧の際、プーチン氏が自らヘリコプターを操縦して出動したことは「ルールに反している」と捉えられた。また大統領府高官は同誌に、メドベージェフ大統領が「非常に怒っていた」と語った。

 ニューズウィークは「メドベージェフ氏は2期目を目指す」と分析し、「プーチン氏は様子見状態。2人は最終的な話し合いはまだしていない」としている。

 2012年には60歳になるプーチン氏が大統領に復帰した場合、前述の改憲の結果、その後の2期12年をクレムリンを過ごす可能性があり、これが実現すれば旧ソ連-ロシアを通じ、独裁者スターリン(Stalin)に次ぐ長期政権となる。(c)AFP/Anna Smolchenko

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