【7月11日 AFP】米国とロシアが冷戦後最大のスパイ交換を行ったことを受け、両国が交換した計14人の「スパイ」たちはロシアと西側で新生活をスタートさせた。
 
 ロシアで2004年に有罪判決を言い渡され、禁固15年の刑で服役中だった兵器専門家、イーゴリ・スチャーギン(Igor Sutyagin)氏は、9日未明にオーストリア・ウィーン(Vienna)の空港で身柄を交換された後、英国のとあるホテルに連れて行かれた。

 スチャーギン氏から連絡を受けた兄弟のドミトリー(Dmitry)さんがAFPに語ったところによると、スチャーギン氏はロンドン(London)に近い小さな街にいて、氏名は分からないがロシア側が交換に応じた4人のスパイのうちの1人も一緒だという。

 英国のメディアは、スチャーギン氏とロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の元大佐、セルゲイ・スクリパリ(Sergei Skripal)氏が英国で、米国に向かう航空機から降りたと報じている。スクリパリ氏は英国のスパイ活動を行っていたとしてロシアで有罪判決を受けていた。

■所持金もなく囚人服でホテルに

 ドミトリーさんはその後ロシアのラジオ局モスクワのこだま(Echo of Moscow)に、スチャーギン氏は英国のビザを所持していないためホテルから出られず、囚人服のままだったと語った。所持金もない様子で、「奇跡的に」手に入れたテレホンカードで家族に電話を掛けてきたが使い切ってしまい、新しいカードも買えないという。

 スチャーギン氏はCIAの隠れ蓑となっていた英国企業に秘密情報を渡していたとして有罪となり、禁固15年の刑を受けて服役していた。しかし情報は公開されていたものだとして自分はスパイではないと主張していた。

 AFPの記者は、交換されたスパイを乗せたとみられる航空機が9日(日本時間10日朝)に米ワシントンD.C.(Washington D.C.)郊外のダレス国際空港(Dulles International Airport)に到着したのを確認したが、何人乗っていたのかは明らかになっていない。

■米の豪邸で快適生活?

 ロシアのテレビは西側の報道を引用して、交換されたうちの1人、アレクサンドル・ザポロジスキー(Alexander Zaporozhsky)氏は米メリーランド(Maryland)州にある100万ドル(約8900万円)の邸宅で快適な生活を送っていると報じている。

 ロシア側の10人についてロシア政府は事実上の報道管制を敷いており、その居場所を一切明らかにしていない。ロシア対外情報局(SVR)の報道官は、この件についてはまだ一切コメントしないと述べた。

 ロシアのニュースサイトgazeta.ruは、ロシアに到着したスパイを乗せたミニバンがモスクワ(Moscow)にあるSVR本部に入ったと報じたが、これについてもSVRの報道官はコメントを拒否した。

 ある米政府高官は、スパイ交換に向けた対ロシア交渉の責任者は米中央情報局(CIA)のレオン・パネッタ(Leon Panetta)長官だったと語り、問題の大きさをあらためて示した。バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が最初にこの件で報告を受けたのは、ロシア人容疑者らが逮捕される2週間ほど前だったという。10人は8日に有罪を認め、国外追放処分を言い渡されていた。米露関係の悪化を避けるため、早期の決着を図ったとみられている。

 ロシア下院安全保障委員会のゲンナジー・グドコフ(Gennady Gudkov)副委員長は、この件についての報道が多すぎると批判する。「このスキャンダルは公にされるべきではなかった。(スパイ交換についての)交渉があったのならば、秘密にされるべきだった」とラジオ局「モスクワのこだま」に語るとともに、スパイ交換は「情報機関が誤りを犯したことを示した」と述べた。(c)AFP/Anna Smolchenko