【8月21日 AFP】公務員というものは、世界中どこでも、非効率な「お役所仕事」などで軽蔑(けいべつ)の対象となりがちだが、36万人とも言われる日本の官僚は少し違う。仕事が「できすぎる」とでも言ったらよいだろうか、この国を動かしてきたのは政治家ではなく官僚だという声が多く聞かれる。

 各種世論調査で次期首相とも目される民主党(Democratic Party of JapanDPJ)の鳩山由紀夫(Yukio Hatoyama)代表は、30日投開票の衆院選で「官僚主導政治の打破」を重点的に掲げ、街頭演説では次のように訴える。「官僚主導の政治を国民が主役の政治に変えようではありませんか」

■官僚と政治の歴史

 日本の官僚については、他の民主主義国家の官僚に比べ、政策のかじ取りや立案、国家予算の振り分けにおいてはるかに大きな権力を行使しているとの指摘が、政治評論家らの間で以前からある。退職すれば、出身官庁が所管する団体や関連法人に再就職する「天下り」もある。

 官僚が特権を握る状態は、日本では7世紀に中国の科挙を元とするメリット・システム(能力主義に基き、一定の専門的知識が求められる登用制度)が導入されたことにさかのぼる。

 第二次世界大戦後、戦前のエリート政治家らが排除された日本の復興は、官僚たちの手に委ねられ、東洋の奇跡と言われた高度経済成長を果たした。この間、官僚たちは1955年からほぼ一貫して政権与党の座にあった自民党(Liberal Democratic PartyLDP)と、大企業とタッグを組んだ。この政・官・財の協力関係はやがて「鉄のトライアングル」と呼ばれるようになる。 

 この過程で官僚機構は干渉の余地もない強大な権力組織となり、国民への説明責任をほとんど果たさない存在になった。その結果、日本は世界有数の規制社会に突入した――これが大方の評論だ。
 
 汚職、予算の無駄遣い、「消えた年金」問題などの管理不行き届きなど、不祥事が明るみに出るたびに官僚は激しくやり玉にあげられている。 

■「脱官僚」は可能か
 
 民主党の鳩山代表は、政権を獲得した暁には、100人以上の国会議員を副大臣や政務官として各省庁に送り込み、行政を監督するとの方針を掲げている。また、予算の骨格策定や外交上の声明作成などを任務とする首相直属の「国家戦略局」を官邸に設置するとも発表している。

 専門家の意見は分かれる。名古屋大学(Nagoya University)大学院の後房雄(Fusao Ushiro)教授(政治学)は、戦後復興という目的をすでに達成し、創造的思考が求められるようになった現代において、官僚の時代は間もなく終わりを迎えるだろうと見る。

 一方で、「官僚機構はなかなか死なない。民主党の行政改革は行き詰まるだろう」との意見も根強い。一橋大学(Hitotsubashi University)大学院の加藤哲郎(Tetsuro Kato)教授(政治学)は、日本の「エリート」である官僚をいかにうまく使うかがポイントだと指摘している。(c)AFP/Shingo Ito