【8月7日 AFP】「ウラジーミルってだれ?」――。1999年8月9日、当時のボリス・エリツィン(Boris Yeltsin)ロシア大統領がウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)氏(56)を首相に任命した時、この男が将来のロシアを構築することになろうとは誰が考えただろうか。

 プーチン氏はエリツィン政権下でわずか2年足らずの間に指名された4人目の首相だった。国家崩壊が現実味を帯びてきた、政治的混乱の中での就任だった。

 プーチン氏は海外ではもちろんのこと、ロシア国内でほとんど知られていなかった。

 8年間大統領を務め、前年再び首相に就任したプーチン氏は9日、最初の首相就任からまる10年を迎える。その間、ソ連崩壊後のロシアの歴史に決定的な貢献を果たしてきた。

 国内の新興財閥勢力をことごとく弱体化させ、チェチェン共和国の分離独立派を粉砕するために同共和国に進攻し、経済を発展させ、西側諸国を怒らせることもいとわなかった。

 国家主義の政治家からはロシアの自尊心を回復したとしてたたえられる一方、人権活動家らからは嫌われている。しかし、現代のロシアを構築する上でプーチン氏の重要性に異を唱える人はほとんどいない。

 著名なロシアの人権擁護家レフ・ポナマレフ(Lev Ponamarev)氏はプーチン氏について、「歴史的重要人物だ。ロシアは民主化への動きを止め、世界と対立する道を進んだのだから」と指摘する。

 一方、親政権派の政治アナリスト、グレブ・パブロフスキー(Gleb Pavlovsky)氏は、「プーチン氏は、新生国家ロシアをめぐる国民間の争いを鎮めることによって歴史にその名を刻んだ。10年前、国民は分裂し、その半数はまだソ連に住んでいると信じていたが、プーチンはこれを変え、特に新たな国家の概念を作り出した」とし、「プーチン氏は、自分が意図した以上のことを成し遂げたまぎれもなく偉大な人物」と評価する。

■「タフガイ」プーチン氏

 国を完全に支配したかのような自信を得たプーチン氏は、最近、他国の首脳には想像できないような姿をメディアで公開している。

 世界最深の湖、バイカル湖(Lake Baikal)の湖底まで4時間かけてミニ潜水艦で潜り、国営テレビで逐一この模様が伝えられたほか、そのわずか2日後には、米映画のインディー・ジョーンズ(Indiana Jones)よろしく馬に乗ってシベリアの大草原を駆け、筋肉隆々の上半身を国営メディアに撮影された。米水泳界のスーパースター、マイケル・フェルプス(Michael Phelps)選手をほうふつとさせるかのように、プーチン氏が苦しそうに息継ぎしながら、二の腕を隆起させ、両ひじをあげてバタフライで泳ぐ映像も流れた。

 これらの行動は明らかに、「タフガイ」としてのイメージを強化するために行われている。長い間強い男の支配に慣れてきたロシアで人気を得るためには、「強さ」は欠かせない要素なのだ。

 プーチン氏にとってターニングポイントとなったのは、2004年9月、チェチェン共和国独立派らからなる武装集団が起こした、331人が犠牲になったベスラン(Beslan)学校占拠事件だろう。治安部隊が学校を制圧した後の同月4日、プーチン氏はテレビに出演し、ソ連を「偉大な国、残念ながら現代世界には適合しないが」と回顧した。現代世界からの挑戦を受けたロシアは「弱みを見せた」として、今や「強さ」を見せるときだとはっきりと認めた。

「弱者は打たれる」とプーチン氏は語った。

 この言葉こそ、プーチン氏のトレードマークであるそっけない話しぶりを伝えるものであり、プーチン氏がレニングラード(Leningrad)の共同アパートで育ったことを思い起こさせる。

 プーチン氏は大統領の座をドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev )氏に譲り、自身は首相の座に戻ったが、ロシアを真に率いているのは誰かということに疑いを持つ人はほとんどいないだろう。

 調査機関レバダ・センター(Levada Centre)が行った世論調査によると、63%がプーチン氏が権力の大半を掌握することがロシアにとってよい、と回答した。

 また、39%がプーチン氏の最大の業績は、生活の質を上げ、ロシアの経済発展を進展させたことだと回答した。

 プーチン氏が自身を、過去数年にわたってロシアが享受してきた大幅な経済発展が突如終わりを告げた経済危機に立ち向かう強硬派の戦士と描こうとしたことは間違いない。

 劇的な経済成長が復活すれば、2012年にはまたプーチン氏が大統領の座に返り咲くとの見方も出てきている。(c)AFP/Stuart Williams