【5月28日 AFP】国際的な経済危機のあおりで、各地で人権がむしばまれるなか、社会不安に揺れる世界は「一触即発」の状態にあると、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)が、28日に発表した2009年度版年次報告書で警鐘を鳴らした。

 一方、同報告書は、世界的なメルトダウンによって、人権を中心に置いて経済の枠組みを再構築するチャンスも与えられていると指摘した。

 08年の世界の人権状況を概観した400ページに及ぶ報告書では、ミャンマーやスーダン・ダルフール(Darfur)地方、パレスチナ自治区など人権侵害のホットスポットとして知られる場所がくまなく挙げられた。

■アジア
 中国・北京五輪(Beijing Olympic Games)は「壮観」だったが、五輪前の人権状況は悪く、当局が全土で抑圧を強化するなか人権擁護派、宗教活動家、少数民族、弁護士、ジャーナリストなどへの抑圧が強まった。

■アフリカ
 ジンバブエでは「国家による暴力」が行使され、コンゴ(旧ザイール)では「おびただしい人権侵害が紛争に関係するすべての当事者」によって実行された。

■米国情勢
 バラク・オバマ(Barack Obama)大統領の当選によって、キューバ・グアンタナモ湾(Guantanamo Bay)の米海軍基地内にあるテロリスト容疑者収容施設の閉鎖に希望が見えたが、発足後数か月経っても「新政権の実績は混乱している」。

■欧州
 グルジアとロシアの武力衝突におけるクラスター爆弾の使用や、少数民族に対する広範な差別など、アムネスティは広く取り上げている。

■イスラエル・パレスチナ問題
 イスラエル・パレスチナ問題は中東の緊張の核心にとどまった。09年1月のパレスチナ自治区ガザ(Gaza)地区に対するイスラエル軍の攻撃は「国際人道法の基本的要件を無視した軍事力の行使」と非難。

■食糧問題
 国内問題や地域問題と同様、10億人が飢餓や栄養不足に陥っている食糧不足といった国際問題も広く強調。

■経済危機
 富裕国では長く続いた好況の末に、突然の国際経済の収縮によって失業率が急増し、経済の危機に油を注いでいる。アムネスティのアイリーン・カーン(Irene Khan)事務総長は「何十億人もの人びとが不安定、不公平、侮辱に痛めつけられている。この状況は、人権の危機だ」と警告する。

 また、主要20か国・地域(G20)へのメッセージとして「経済問題の修正は、それにともなう人権問題を修正しなければできない」と語った。

 しかし、このアムネスティ報告書の結論はまったく絶望的なわけではない。国政経済の「残がい」から、より良いものを再構築することは可能だと締めくくっている。

■経済危機は人権尊重社会へのチャンス

 カーン氏はこう指摘する。「過去20年の間、経済成長が上げ潮ならばすべてうまくいくという信念に支配されて、国家は姿をひそめて市場の肩をもち、人権を擁護すべき責任を果たさずにやって来た。潮が引き、ボートが浸水しだすと、各国の政府は抜本的に立場を変え、国家がより強大な役割を果たす新しい国際金融構造や国際政府システムについて語り始めた」

 カーン氏はこれを歓迎すべき傾向だとみなす。「社会空間から国家を後退させずに、過去20年の国際的な政策決定の場を特徴づけていたような社会モデルよりも、もっと人権を尊重するモデルを作る機会になる」(c)AFP/Michael Thurston