【7月22日 AFP】米国政治の新たな時代の幕開けとなるのか、それとも候補が乱立する2008年の大統領選に向け、果てしない選挙戦を戦い抜くための新たな戦略となりうるのか。動画共有サイトのユーチューブ(YouTube)を使った米民主党候補者と有権者の討論会が23日、サウスカロライナ(South Carolina)州で開かれる。

 ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)上院議員ら米大統領選挙の指名を争う民主党候補者の討論会が23日、サウスカロライナ(South Carolina)州で開かれる。この場で受けつけるのは、テレビ局が高額の出演料を払った有名人による質問ではない。一般の有権者がテレビ局のチェックを受けず、動画共有サイトのユーチューブ(YouTube)に投稿したビデオで投げかける質問だ。

 米CNNテレビとユーチューブの共催で初めて開かれるこの討論会は、筋書き通りに事が運ぶ退屈な場を捨て、最先端だがリスクのあるサイバースペースに討論の場を移すと銘打っている。

■ユニークな質問ビデオ

 ユーチューブのサイトにこれまでに寄せられた質問ビデオは1700本以上。多くは寝室や居間で撮影され、画像は粗い。内容は深刻なものから風変わりなもの、それにわいせつ風なものまで多岐にわたる。23日を前に本数が絞られ、候補者の前で再生される予定だ。

 ユーザーの1人、キムと名乗る人は、かつらを脱いで髪の毛が抜けおちた頭を見せ、がんとの闘病と高額な健康保険ついて質問を投げ掛けた。米国では健康保険に加入していない人が4500万人に上る。

 そのほかダルフール、イラク、教育問題についての質問や、テレビではとても放送できないが、何でもありのインターネットにふさわしいおふざけビデオも多数。バットマン人形に扮した人がクリントン候補に質問したビデオもあるが、同候補が国政にかかわって以来このような人から質問を受けたのは初めて。

 レイチェル・ジャクバ博士と名乗る人物は、ゴーグルとシュノーケルをつけた姿でウミガメの保護を訴えた。アイオワ(Iowa)州やニューハンプシャー(New Hampshire)州の選挙運動ではまず出てこないテーマだ。

■新たな選挙活動の場

 各候補ともサイバースペースへの足掛かりをつかみ、ユーチューブを長時間利用する若い有権者層にアピールしたい考えで、同サイトやソーシャルネットワーキングサービスのフェイスブック(FaceBook)での知名度を上げるため、多額の選挙資金をつぎ込んでいる。

 民主党の指名争いでクリントン上院議員やバラク・オバマ(Barack Obama)上院議員の後を追うジョン・エドワーズ(John Edwards)元上院議員は、今回の討論会は素晴らしいアイデアだと、やはりユーチューブ上でコメント。「マスコミからは同じことを何度も質問される」とこぼしている。

 討論会の開催は、政治の新たな転換点になるとの触れ込みで6月に発表された。ユーチューブのチャド・ハーレー(Chad Hurley)CEOは「候補者討論会史上で初めて、全米の有権者が未来の米大統領にビデオで質問し、答えを聞くことができるようになった」と述べている。

■ビデオの絞込みは趣旨に沿わない、専門家批判

 専門家からは異論もある。政治フォーラムサイト「TechPresident.com」の副編集長、Joshua Levy氏はブログで、プロのジャーナリストが質問をふるい分けすること自体、趣旨から外れていると指摘する。

 23日の討論会は草の根運動と銘打ってはいるが、大手メディアのCNNと、検索大手グーグル(Google)の傘下にあるユーチューブが手を組んだものだ。投稿されたビデオをざっと見渡すと、各陣営と政治のプロによる不正に作成したと思われる内容も混じっている。いずれにしても、こうした騒ぎが票につながるかどうかはまだ分からない。

 共和党候補者のユーチューブ・CNN討論会は9月に行われる。(c)AFP