【7月15日 AFP】5年にわたる交渉、5万トンの重油、そして国際銀行間の複雑な取引を経て、ようやく北朝鮮から寧辺(ニョンビョン、Yongbyon)の核施設の停止宣言を引き出したが、今後の北朝鮮の非核化については紆余(うよ)曲折が予想される。

 国際的シンクタンク、国際危機グループ(International Crisis GroupICG)北東アジア研究所のピーター・ベック(Peter Beck)所長は、核兵器用プルトニウム抽出を行う寧辺の施設閉鎖を「特筆すべき成果」としながらも、「今後どう展開するかが問題で、関係各国が明確な筋道を描いているかは不明だ」とAFPの取材に対して語った。

■あいまいな合意内容、既存の核の処理について新たな合意が必要

 米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(Institute for Science and International Security)は北朝鮮が保有するプルトニウムを46~64キログラムと推定しているが、寧辺の核施設閉鎖により北朝鮮のプルトニウム保有量がこれ以上増える懸念はなくなった。もっとも同研究所は、北朝鮮は既に5~12個の核爆弾に相当する28~50キログラムのプルトニウムが抽出されていると推測している。

 今年2月の6か国協議での合意事項は既存の核兵器について一切触れていない。これについてベック所長は、「この合意にあいまいな点は多い。細部において困難が予想される」と指摘する。

 韓国国防研究院(Korea Institute for Defence AnalysesKIDA)の北朝鮮研究チームを率いるBaek Seung-Joo氏は、北朝鮮政府は核施設の閉鎖のみを合意したと解釈しているとして、「既存の核について米国をはじめとする6か国協議参加国は北朝鮮との間に新たな合意が必要だが、これまで以上の困難が伴うだろう」と述べた。

 同氏はまた、「北朝鮮の核廃絶はまだスタートラインに立ったばかり。行程を実行するにはまだまだ時間がかかる」と話し、核施設の閉鎖は前進であるものの今後の道のりはまだ長いと指摘した。

 Baek氏はまた、北朝鮮がすべての核関連施設の詳細を明かすようなら、北朝鮮が「核廃絶にどれだけ真剣に取り組んでいるかが分かる」と話し、プルトニウム抽出だけではなく、疑惑のあるウランの高濃縮プログラムについてもなんらかの取り決めをするべきだとの見方を示した。同氏は、ウラン濃縮が北朝鮮で進められている可能性には疑問が残るとしながらも、パキスタンから必要な設備を購入するなど、北朝鮮がウランについても何らかの計画を持っていることは間違いないだろうと話す。

■核兵器放棄の可能性は

 北朝鮮が将来的に核兵器を廃絶するかとの問いにBaek氏は、「金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記に核廃絶を実現する力があるかどうかわからないが、我々はこれを見極める努力を続けるべきだ」と指摘した上で、「(米国による)外交上の承認など大きなメリットなしには、北朝鮮が核兵器を簡単に廃絶することはないだろう」とみる。Baek氏によれば「体制維持の保障と外交上の承認は北朝鮮の究極の目標」だからだ。

 ロシアの北朝鮮専門家アンドレイ・ランコフ(Andrei Lankov)氏は今年初め、北朝鮮が保有する核兵器が抑止力となることで核施設の閉鎖が可能になるが、それゆえに北朝鮮は核兵器を廃棄することはないとの論評を発表した。核兵器で国際社会に圧力をかけることができなければ、「北朝鮮は極貧にあえぐ、ありふれた発展途上の暴政・圧制国にすぎない」と同氏は指摘する。(c)AFP/Simon Martin