【6月3日 AFP】英国防省(Ministry of Defence)が、12か月以内にイラク駐留英軍を完全撤退させ、アフガニスタンへの増派を検討していることが分かった。3日付けの英日曜紙「サンデー・テレグラフ(The Sunday Telegraph)」が英軍幹部の話として報じた。

 同紙によると、来年5月までにイラク駐留英軍の完全撤退を目指す新たな計画は、ゴードン・ブラウン(Bordon Brown)財務相が27日にトニー・ブレア(Tony Blair)現首相から政権を引き継いだ後、数週間以内にブラウン新首相に進言されるという。

 ブレア政権下の英国は、イラクからの撤退は計画に従って行うのではなく、現地の情勢に従うとの姿勢を繰り返し示していた。

 ブラウン次期首相に進言される計画は、アフガニスタンのイスラム武装集団タリバン(Taliban)掃討に兵力をつぎ込むため、「緊急命令」によってイラクから撤退するものと同紙は報じる。

 ある英軍幹部は「英国にはアフガニスタンとイラクでの両面作戦を行う兵力はない」と同紙に語り、「問題はどちらをあきらめるかだが、政府関係者と軍幹部はイラクをあきらめることで合意に達した。順次撤退の日程も合意に至っており、12か月以内には完全撤退する」との見方を示した。

 一方で、軍関係者の多くは、英国にとって戦略的に重要なのはアフガニスタンではなくイラクだと考えており、撤退計画は軍内部で支持を得られていないと同紙は報じている。同幹部は、「国防省と政府内では、アフガニスタンでの軍事作戦で成果を得るのがより簡単と信じられており、それゆえイラクからの撤退が魅力的に映るのだろう」と分析する。

 同幹部はさらに、「多くの米国と英国の軍関係者はアフガニスタンよりイラクの方がはるかに戦略的に重要だということを理解していても、イラクでの軍事行動は国民の支持を得られていない。この選択が間違ったものだということを歴史が証明することになると思う」との見解を示しながらも、「国防省の最上層では英国はイラクよりもアフガニスタンに『集中』すべきだという決定がなされており、この助言はゴードン・ブラウン次期首相に伝えられるだろう」と話す。

 南部の主要都市バスラ(Basra)を中心に展開するイラク駐留英軍は、今年に入って7100人規模から5500人規模に削減された。一方、アフガニスタンには武装勢力の活動が続く南部を中心に6000人を上回る規模の英国軍が駐留しており、今年中には7700人超まで増兵される。

 ブラウン氏に近い筋はサンデー・テレグラフ紙に、「ブラウン次期首相は英国が同盟国とイラク国民に対する責任を今後も果たし続けると断言している。派兵についての決断はすべて、政治的な計画ではなく作戦上の目的に見合って決定される」と話している。一方、ゴードン財務相に近い匿名の閣僚はブラウン氏について、「愚かではない。最終的には軍司令部に従い、われわれの撤退日程は変更されるだろう」との見方を示している。(c)AFP