【東京 16日 AFP】第二次世界大戦中の従軍慰安婦問題をめぐり、東京裁判関連文書が新たに見つかったと研究者が16日、発表した。物議を醸した安倍晋三首相の「軍の強制性を裏付ける証拠はない」との発言に対し、さらに波紋が広がりそうだ。

 文書を発見したと発表したのは、関東学院大学経済学部の林博史教授(現代史)。1946年から48年までに行われた東京裁判中に提出された大量の証拠書類が保管される倉庫を調査し、7つの関連書類を発見したという。

 文書の1つは1946年3月13日にオランダ人検事が作成したもので、旧日本軍に雇われていた日本の民間人の言葉が引用され、占領先のボルネオ(Borneo)島で将校が現地の女性たちを裸で立たせ、顔をたたいたと証言している。

「抑留したのは彼らを淫売屋にいれることができるための口実を設けるために警備隊長の命令でなされたのであります」(文書中の記載)

 他の文書に含まれる旧陸軍将校の証言では、インドネシアのモア(Moa)島で同軍が女性たちを強制的に従軍慰安婦にしたと述べられている。

「島民が日本軍を襲撃したのでその関係者40人を軍が殺害し、彼らの娘たち6人を慰安所に入れたと陸軍中将が言っている。ひとりは慰安所にいくことに合意したが他の5人は拒否したと」いう。

 第二次大戦終了時までに旧日本軍の従軍慰安所に居たことのある女性は、アジア全域で計20万人に上るとみる歴史家もいる。

 安倍首相は3月、まるで拉致するかのように慰安婦らを「強制的に連行した証拠はない」と発言し、波紋を呼んだ。しかし以後、「広義の強制性はあった」などと繰り返し発言し、さらに慰安婦問題に対する日本政府の謝罪と反省を示した1993年の河野洋平官房長官(当時)の談話を「継承する立場だ」と繰り返し強調した。

 これまで保守派の活動家からは、日本軍の直接関与を示す証拠は被害者側から提供されたものばかりだと論じる声もあった。

 林教授が発見した文書は東京裁判資料として公式に提出されたもので、新たな重要性を帯びるといえる。また日本政府は同裁判の正当性について、1952年に発効したサンフランシスコ平和条約で承認している。

 歴史研究者の一部や反戦活動家らが調査を進める「日本の戦争責任資料センター」で研究事務局長も兼任する林教授は、同共同代表の吉見義明中央大教授とともに17日に、文書を公開する予定だ。

 吉見教授は、旧日本軍兵士が中国人女性に性的暴行を加えることを避ける目的で慰安所が設置されたことを示す資料を発見したとしている。吉見氏の発見は、「心から」の「お詫びと反省の気持ち」を示し、「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」と認めた1993年の河野談話へとつながった。

 林教授によると、今回自身が発見した内容に似た文書は、個別には過去10年間でも発見されたことがあるという。一方で同教授は「他国によって東京裁判に提出された証拠書類が、しっかり調べられてこなかったことは事実だ」とする。

 米国では民主党が多数派を占める議会で、日本政府に慰安婦に対する無条件の謝罪を求める法案の可決が見込まれる中、安倍政権は同法案に強く反発している。

 一方、前週訪日した中国の温家宝(Wen Jiabao)首相が歴史認識に関して融和的な姿勢を見せ、慰安婦問題に関し言及しなかったことから、安倍首相の発言に関する混乱もこの数週間は沈静化している。
 
 写真は、東京の首相官邸で記者会見を前に国旗の前に立つ安倍首相(3月27日撮影)。(c)AFP/Toru YAMANAKA