【4月14日 AFP】イエス・キリストをローマ人に引き渡した大祭司カヤパ(Caiaphas)の墓から見つかった約2000年前のくぎ2本は、キリストを十字架にかけた時に使用されたものの可能性が高いと、イスラエルのドキュメンタリー映画監督が12日、発表した。

 エルサレム(Jerusalem)で行われたヒストリーチャンネル(History Channel)の新番組の発表会見で、番組プレゼンターを務めるシムチャ・ジャコボビッチ(Simcha Jacobovici)監督は、長さ約8センチの曲がった鉄くぎ2本を報道陣に公開した。新番組は、このくぎがキリストの磔(はりつけ)に使用されたかどうかを検証する内容だ。

 2本のくぎは、20年前、エルサレムにあるカヤパ家のものと思われる墓所を発掘した際に発見された。石灰岩のひつぎの中と墓所の床の上でそれぞれ発見されたと記録には記されているが、その後くぎは2本とも行方不明になり、写真やスケッチも残っていなかった。

 ジャコボビッチ監督は、くぎの捜索を開始。訪れたテルアビブ大(Tel Aviv University)で、やはり20年前に発掘された同年代のくぎ2本を偶然発見し、カヤパの墓で見つかったものだと確信した。

 監督は、くぎの長さと、先端が曲がっている点が、磔の際に手に打ち込まれたくぎの特徴と一致していると指摘。くぎがカヤパの墓で発見されたと考えられること、カヤパが磔刑にかかわった人物はキリストだけだったことから、これらのくぎがキリストの処刑に使用されたものだと結論付けた。

 では、なぜ、キリストを処刑台に送ったと聖書に記されているカヤパが、処刑に使われたくぎと一緒に埋葬されることを望んだのだろうか。ジャコボビッチ監督は、カヤパが罪悪感に苦しめられていたためではないかと推測する。

 番組では、カヤパが実はキリストをひそかに信仰しており、キリストの身柄をローマ人に引き渡すことが彼を死に追いやる結果になるとは想像していなかった、というシナリオも提示している。

■考古学者いわく、「疑問だらけ」

 歴史資料には、ローマ支配下のイスラエルで数万人が磔刑に処せられたとの記録がある。しかし、それを支持する考古学的な証拠としてこれまでに見つかったのは、1968年にエルサレムで見つかった、鉄くぎが刺さったかかとの骨の化石1個だけだ。

 エルサレムで40年にわたる墓の発掘経験を持つテルアビブ・バルイラン大(Bar-Ilan University)のガビ・バルカイ(Gabi Barkai)教授(考古学)は、ジャコボビッチ監督の主張には懐疑的だ。

 教授によると、問題のくぎは確かに1世紀のものだが、厳密な年代は特定できない。また、キリストが生きていたとされる第二神殿時代の墓からくぎが発見されることはめずらしい上、くぎには骨の残留物が付着していなかったという。

 磔刑に使用されたくぎが当時、来世における強力なお守りになると信じられていたなど、墓からくぎが見つかったことを説明する説はいくつかある。しかし、これについても同教授は、「問題のくぎがカヤパの墓で発見されたものだという証拠もない」と述べ、すべては可能性にすぎないとの見方を示した。(c)AFP/Hazel Ward