【5月20日 AFP】2001年9月11日の米同時多発テロで崩壊したニューヨーク(New York)の世界貿易センター(World Trade Center)ビル跡地「グラウンド・ゼロ(Ground Zero)」の隣にイスラム教のモスクを建設する計画がもちあがり、平和を希求する思いと不信による怒りの狭間で揺れている。

 約3000人が命を落とした同時多発テロの現場から2ブロック離れた一角には、放置されたブティックのほか今は何もない。そこにモスクを中心とする数階建てのイスラム教センターを建てる計画を率いているのは、ニューヨークのイマム(イスラム教の指導者)フェイサル・アブドゥル・ラウフ(Feisal Abdul Rauf)師だ。

■イスラム教徒以外にも解放、「架け橋」めざす

 モスクにはスポーツ施設や映画館、デイケア・センターなども併設し、イスラム教徒だけでなくあらゆる人に利用を開放する方針で、イスラム教徒たちも地元コミュニティーの一部なのだとアピールしていきたいと語るラウフ師。同師によると米国内でこうした施設はこれまで存在しない。

 同時多発テロ以降、アメリカのイスラム教徒たちは世論からも当局からも「テロリズムの温床」というレッテルを貼られ、辛い時を送ってきた。ラウフ師は計画しているセンターが、テロ事件で沈みきったロウアーマンハッタンに活気をもたらすとともに、イスラム教徒に対する米国民の見方を変えることができたらと願っている。

■「まるで宣戦布告」と怒りの声も

 しかし、事件をいまだ「昨日のことのよう」に思い出してしまい、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を訴える市民からは、モスク建設への抵抗感を訴える声も聞かれる。ラウフ師の平和の願いに反し、「グラウンド・ゼロ」間近の立地について「宣戦布告」のようだと怒りをあらわにしたり、アウシュビッツ(Auschwitz)にドイツの文化センターを作るようなものだと批判する人々もいる。

 強い反対があることについて尋ねると、ラウフ師はそれでも、センターがイスラム教徒と外部の大きなコミュニティーとをつなぐ架け橋になることを願うと語った。「これは米国人イスラム教徒のアイデンティティー作りでもある。第2世代、第3世代のイスラム教徒の中には、(米国の)一部だと感じていない者たちもいるが、それではいけない。この数年、『穏健派のイスラム教徒の声はどこに行ったのだ?』という声を耳にしてきた。今こそ、『ここにいます』とわたしたちは伝えたい」(c)AFP/Sebastian Smith