【8月31日 AFP】ロシア・シベリア(Siberia)地方で、元警察官の男性が「イエス・キリスト(Jesus Christ)の再来」として信者を集めている。

「ビサリオン師(Vissarion, the Teacher)」または「シベリアのイエス(Jesus of Siberia)の名で知られる「その人」が、茶色の長髪に至福に満ちた微笑みをうかべ白衣の裾をなびかせてロシアの極東の村ペトロパブロフカ(Petropavlovka)に現れると、人びとは「先生がいらっしゃった!」と彼に群がった。

 女性たちは感極まって涙を流し、祝福を受けようと手を差し伸べる。ある女性信者は「まるで永遠のよう」と興奮気味に語り、男性信者は「彼は地上に存在する愛そのものだ。君も感じたかい?」とため息をつく。

 救世を約束するビサリオン(Vissarion)氏の宗派は、シベリア地域に約4000人の信者を持つロシアでも最も熱狂的な新興宗教の一派だ。毎年8月、1991年に最初の「説教」を行った同地で群衆に語りかける。

■元警官、「お告げ」で目覚める

 ビサリオン氏は、本名をセルゲイ・トロップ(Sergei Torop)といい、かつては近郊のミヌシンスク(Minusinsk)で交通警察官をしていた。しかし、旧ソビエト連邦が崩壊に向かいつつあった1989年に職を失い、そのとき、神のお告げを受けて「覚醒」した。

 どのようにして自分が「神の子キリスト」だと悟ったのかとのAFP記者の質問に、ビサリオン氏はひざに手を置き、静かな声で次のように答えた。「興味深くも、非常に複雑な出来事でした。自分自身の内部から、それまで抑えつけられていた激しい何かがこみ上げてくるのを感じたのです」

■信者に広がる希望、一方で問題も
 
 ビサリオン氏が啓示を受けたという1989年は、無神論を基本姿勢としていたソ連の体制が揺らぐ中、多くの新興宗教が生まれた時期でもある。

 一方、4000人あまりの信奉者にとって、ビサリオン氏は十字架にかけられてから2000年の時を経てシベリア最果ての地によみがえった救世主イエス・キリストの再来にほかならない。「弟子」たちはペトロパブロフカで共同生活をし、酒もタバコも禁じ、完全菜食主義を取っている。

 ビサリオン氏を囲む祝祭ムードには、一抹の終末感が漂い、どこか1960年代のヒッピー文化を思わせる。髪に花を飾った女性や、長衣をまとい長髪をポニーテールにした男性信者もみられる。信者には医師や教師、元赤軍メンバーやベラルーシの元大臣などもおり、巡礼者はキューバ、ブルガリア、ベルギー、イタリア、ドイツ、オーストラリアなどから集まる。

 ある女性信者(38)は、ビサリオン氏の信奉者らを「1つの心を持った1つの家族」とたとえ、「ここにいる信者全員のエネルギーを合わせれば、地球を破滅から救えるはず」と語った。

 一方で、元信者などの話によると1990年代に自殺または厳しい生活環境が原因で死亡した信者もおり、ダニなどが病原の病気が信者の間で流行しているともいわれる。(c)AFP/Alissa de Carbonnel