【9月13日 AFP】エジプトでイスラム教徒として生まれた元警察官のマーヘル・アル・ゴハリ(Maher al-Gohari)さん(56)は、30年前にキリスト教に改宗した。しかし、それを公にしようと決意したのはつい最近のことだ。

 ゴハリさんは今年になって、高等行政裁判所に対し、公式身分証明書の宗教欄の「イスラム教徒」を「キリスト教徒」に変更するための申請を届け出た。

 エジプトでは、公式身分証明書を常に携行していなければならない。身分証明書がないと、公的なサービスが一切受けられないのだ。だが、キリスト教への改宗は、違法ではないものの、実質的には不可能に近い。

 1月には、同じくイスラム教からキリスト教に改宗した男性が同様の申請をしたが、却下された。このときは、「(イスラム教よりも)古い宗教への改宗」を禁じるイスラム法(シャリーア、Sharia)が根拠にされた。

■身内から命を狙われる

 ゴハリさんの改宗申請のニュースは全国に報じられ、ゴハリさん自身もテレビに出演して改宗を告白した。しかし弟がこれを知り、家の外で銃を手にゴハリさんを待ち受けるようになったため、ゴハリさんは引っ越さざるをえなくなった。

 ゴハリさんの選択は「名誉を汚した」と、親族の怒りを買っている。イスラム世界では、背教は極めて重い犯罪で、死刑が宣告される場合もあるという。

「わたしはイスラムを侮辱したことなど一度もない。わたし自身の権利、わたしの選択を国に認めてもらいたいだけ」とゴハリさん。

 彼は30年前にキリスト教に魅了されたが、洗礼は容易なことではなかった。秘密警察のスパイだと疑われ、複数の教会に洗礼を断られたあと、ギリシャ正教への入信がかなった。現在は、信者数がエジプト人口の6-10%を占めるというキリスト教の一派、コプト教の信者だ。

 ゴハリさんは2度の離婚を経てイスラム教徒の女性と再婚したが、この妻もキリスト教に改宗した。前妻との娘を含め、娘たちも全員、自分たちをキリスト教徒だと思っている。ただ、14歳のダイナさんだけは、公的にはイスラム教徒と見なされていたため、コーラン学校に通わなければならなかった。

■「改宗は自由」の宗教令は出たものの・・・

 ゴハリさんのケースは、エジプト、そしてイスラム諸国における「宗教の自由」が改めて問われる機会となる。

 1年前、エジプトの大ムフティ(高位のイスラム法学者、指導者)であるアリ・ゴマー(Ali Gomaa)師は、「イスラム教徒は自由に改宗することができる」とするファトワ(宗教令)を出している。

 ニューヨークに本部を置く国際人権監視団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights WatchHRW)」は、身分証明書に宗教欄がもうけられていることについて、キリスト教への改宗者や少数派宗教への差別につながるとして強く非難している。(c)AFP/Magdi Samaan