【9月11日 AFP】インドの裁判所が10日、被告4人に有罪を言い渡した集団レイプ殺害事件は同国全土に大規模な抗議行動を巻き起こし、性犯罪に関する法の厳罰化や警察改革を促したが、女性に対する暴力の波は一向に収まる気配がない。

 昨年12月、首都ニューデリー(New Delhi)で個人バスに乗り込んだ女子学生(当時23)が、一緒にいた交際相手の男性ともども車内で集団に暴行され、女性は約2週間後、治療を受けていたシンガポールで多臓器不全のため死亡した。

 女性人権団体などの活動家らは、この事件をきっかけに性的暴行を受けた被害者の一部が沈黙を破るようになり、長年、レイプに関するどんな議論も封じてきた文化的タブーが解かれたと述べている。

 女性の支援や人権擁護活動を行っているニューデリーのNPO「社会研究センター(Centre for Social Research)」のランジャナ・クマリ(Ranjana Kumari)氏は、亡くなるまでのおよそ2週間、女子学生の生き延びるための闘いが、他の被害者たちに声を上げさせたという。「以前だったらレイプという言葉さえ誰も口にしなかったけれど、その沈黙が終わりを告げたのです」

 前月ムンバイ(Mumbai)で女性カメラマンが同じく集団レイプされた事件は、広く報じられたことで、別の女性が7月に同じ容疑者たちに暴行されたことを初めて証言するに至ったとクマリ氏は語る。しかし司法制度には依然、「やる気のなさ」が漂っているという。

 ニューデリーの集団暴行殺害事件の被告4人の裁判は迅速に進められたが、その他のレイプ犯罪の裁判は事件発生から何年もたった今もなお審理開始を待っているありさまで、人権活動家らは裁判官の考え方自体、変えさせる必要があると主張している。

   「レイプの都」とまでいわれるニューデリーの警察には今年1~6月で800件のレイプ被害が記録されているが、これは前年同期比で2倍以上となっている。この増加について、デリー警察の女性と子どものための特別班に所属するスマン・ナルワ(Suman Nalwa)氏は、被害者の間で名乗り出ようという意志が高まっている表れだと説明する。

 警察の対応に非難の声が向けられたことによって、デリー当局は全警官に対し、2008~11年に展開していた性犯罪に関する意識強化キャンペーンを復活させた。また電話相談サービスを増設したり、全警察署に女性のための24時間相談窓口を設けた。ナルワ氏いわく「以前は性暴力は他の犯罪と比べて後回しにされることを余儀なくされていたが、今は最優先とみなされている。最高水準の態勢でそうした犯罪を監視している」という。

 政府も強姦(ごうかん)罪の罰則強化という重要な一歩を踏み出した点は、活動家らも認める。3月の議会で可決した新法には、レイプの被害者が死亡した場合に実行犯の最高刑が死刑となったことや、性的暴行や性的いやがらせに関する記録を怠った警察官に対する懲戒処分の条項などが盛り込まれた。

 こうした変化は抗議行動の正当な成果だと、「全インド進歩的女性協会」(All India Progressive Women's Association)の運動家、カビタ・クリシュナン(Kavita Krishnan)氏は評価し、「性的暴力に対する闘いがいかに大きな運動となり得るか、世界もインドの闘いから学べることがたくさんあると思う」と語った。

 しかし社会研究センターのクマリ氏のように、インド当局が真剣に性的暴力と闘うのならばもっと根本的な改革が必要だと訴える運動家もいる。性的暴行の後遺症と向き合うにあたり、被害者が当局から十分な支援を得られることはまれな上、レイプの被害者に無神経に対応する警官や公務員は今も多い。新法についてクマリ氏は、厳格な懲戒処分の枠組みを示した包括的なものだが十分でないと批判し、「何万件ものレイプ被害が未解決な一方で、有罪となっているのはわずか。これではまったく強いメッセージになっていない」と語った。(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY