【9月3日 AFP】電源をオフにできず、人生のあらゆる瞬間を捉える「メモト(Memoto)」──成人して間もなく両親をがんで失ったことがきっかけとなり、人として、そして起業家として「今を生きる」よう駆り立てられたスウェーデン人のマルティン・シェルストレーム(Martin Kaellstroem)さん(38)が世に送り出したライフログカメラだ。

 シェルストレームさんはスウェーデンのベンチャー企業「メモト」の共同創設者。「人生を記録(ライフログ)」する同名のカメラ「メモト」のプロモーションで忙しい日々を送っている。

 クリップでシャツに留めたり、首にかけたりして装着するこのカメラは、30秒に1回シャッターを切る。

「両親を亡くすと、自分の命も永遠ではないことに気付く。このことは間違いなく、自分の起業家精神に影響をもたらした。夢の実現を遅らせることはできない。今、夢のために生きなければ」とシェルストレームさんは語る。

 ジョージ・オーウェル(George Orwell)の小説「1984年(1984)」や映画『トゥルーマン・ショー(The Truman Show)』といったディストピア作品との類似点を見いだす人もいるかもしれない。だが、メモトカメラ開発チームは、プライバシーを侵害するものではなく、むしろ、思い出を集めるものだと主張する。

 シェルストレームさんは、「一昔前は、みんなでおしゃれをしてカメラに向かってほほえむような特別な機会にカメラが持ち出されることが多かった。しかし、どの瞬間が将来大切なものとなるかなど前もって知ることはできない。未来の伴侶に出会った瞬間、事故や犯罪を目撃した瞬間など、振り返りたい写真があるかもしれない」と話す。

 一見、iPod miniのようにも見えるメモトは、撮影した大量の写真を撮影場所、時間、光の加減などの情報によって自動的に選別・整理する。選別された「メモリータイムライン」は、フェイスブック(Facebook)やツイッター(Twitter)などのソーシャルメディアで共有できる。

 同企業の共同創設者、オスキャル・カルマル(Oskar Kalmaru)さんはこのカメラについて、日記をつける忍耐力のいらないハイテク時代のツールだと説明する。「ブログやトラベログを書こうと思って何度も挫折した。年配の親戚たちは20年以上も日記をつけたりしているけど、なかなか難しい」

 シェルストレームさんによると、メモトの使用者は大きく2つのタイプに分けられるという。「1つ目は私もそうだが、思い出を集めて整理し、身近な人たちとシェアするタイプ。もう1つはもっと社会的で創造的、活動的な生活をさまざまなソーシャルメディアを通じて発信するタイプだ」

■プライバシーの面で疑問も

 しかし、クラスメートや従業員、近隣住民の中には、写真に写りたくない人もいるかもしれない。ライフロギングにはプライバシーに関する問題があると、スウェーデン防衛研究所の研究員は指摘する。「私的な場面」は相対的な関係にあり、ある人にとって攻撃的でないものでも、他の人にとってはそうである可能性があるという。

 同研究員は、「写真がどこにいきつくかが問題」と述べる。これまで、写真は探せるものでは無かったが、新たな技術は常に開発されており、「一旦、これらの写真が探せる対象となれば、もっと多くの問題が持ち上がり、事態の収拾がつかなくなるだろう」と指摘した。

 ライフログに関する著作を執筆中のヤン・スバルドハーゲン(Jan Svaerdhagen)氏もこの考え方に同調する。「最初の疑問は『30秒ごとに撮影することで何が果たされるのか』。誰が何の目的でこの製品を買うのか。われわれは1日24時間、1週7日自分の生活を他人とシェアするソーシャルメディアの次のステージに入ったのか」

「私はよくジョギングをするが、ジョギングの一幕を捉えた写真は面白いだろうと思う。ただ一方で、最も極端な形のナルシシズムに入りつつあるのではとの疑問も湧く」とスバルドハーゲン氏は話す。

 シェルストレームさんは、メモトを開発する際、「スパイの目」と向き合うことに不快感を覚える人もたくさんいることを想像し、開発チームとともにプライバシーについて多くの議論を交わしたことを明らかにした。

「これはカメラだが、人々を動揺させるのではなく快適にする、フレンドリーな設計のものだということを明確にしなければならない」(シェルストレームさん)

 近々、メモト4000台が購入者の元に届く。将来的には防水ケースや広角レンズ、WiFi機器などの付属品も開発されるかもしれない。現在、カメラをカスタマイズしたい利用者向けにオンライン上で設計図が公開されている。(c)AFP/Anna-Karin Lampou