【8月12日 AFP】フランスで、「あごひげ」の流行が復活している──求めているのは古代ギリシャの哲学者のような知的で厳粛な雰囲気なのか、それとも1950年代の「ビートニク」のような飾り気の無さか、専門家らが分析した。

 同性愛者の向けの雑誌「Tetu」の7・8月号の表紙は、完璧に整えられたひげをたくわえた男性のツーショットだった。ファッションブランド「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」が開催した最新のファッションショーでも、「ひげ面」のモデルが次々に登場した。  古代ギリシャ人はあごひげを男らしさの印と考え、19世紀後半のヨーロッパ人は顔ひげを良識ある中流階級という社会的地位の象徴とみなした。

 1950年代には作家ジャック・ケルアック(Jack Kerouac)をはじめとした「ビート・ジェネレーション」に由来する「ビートニク」の間であごひげが復活し、「あごひげはもはや力のある者たちの流行ではなくなった」とファッション史研究家のローレン・コッタ(Laurent Cotta)氏は語る。「社会規範に従わないことをものともしない人々は、あごひげを反逆の象徴とし、『自分は外見なんか気にしていない』ことを示すために生やした」

 1960年代、既存の体制や主流文化に対するヒッピーたちの対抗文化(カウンターカルチャー)もまた豊かなあごひげを愛した。しかしその後数十年間、あごひげは90年代にデザイナーたちの間で無精ひげが流行るまですっかり姿を消していた。

 現在の新たなあごひげブームについてコッタ氏は、「アーティスティックな世界で仕事をしていることを示すもの」で、銀行や保険業界といったより古い職場環境では依然、眉をひそめられることはあるだろうという。たった数人のトレンドセッターが仕掛け、フランスでの流行はまだ2年も経っていない。

 パリでグラフィック・アーティストとして働くアントワン・エトリ(Antoine Ettori)さん(28)は濃く、手入れの行き届いたあごひげを生やし始めて1年以上になる。同じ職業では、あごひげを生やしている人が多いと話すエンリ氏は、普通にそるよりも、あごひげの手入れの方が時間がかかると述べた。「サンタクロースみたいにならないように、いつもカットしてるよ」

 10年前、理髪店「La Barbier de Paris」(パリの理髪師)を開店したサラ・ダニエルハミジ(Sarah Daniel-Hamizi)さんは、あごひげブームのおかげで商売は上向きだという。「あちらこちらの美容師からトレーニングを受けたいと連絡が来ます。(ひげの手入れは)伝統的な商売で、多くの技術を必要としますから」と語る。

 今日の社会では、きちんと手入れがされている限り、顔のひげは受け入れてもられるとダニエルハミジさんはいう。このサロンではひげのカットに18ユーロ(約2300円)~の料金を設定しているが、中には毎週訪れる顧客もいる。ダニエルハミジさんいわく顔ひげは、傷やにきびを隠すことができるだけではなく、薄毛や顔の型からも注意をそらすことが可能だという。

「(それに)もちろん男性的な面もある…若い女性たちのヘアスタイルと同じように、誘惑の手段でもあります」 (c)AFP/Caroline TAIX