【7月31日 AFP】米首都ワシントン(Washington D.C.)郊外のアーリントン(Arlington)にあるチーズ専門店「チーズティック(Cheesetique)」のオーナー、ジル・エルバーさんは、店が販売する商品の一つである仏産チーズ「ミモレット」を守ろうと必死の思いで「救済運動」を展開している──。米当局は現在、ミモレットの外皮が小さな「チーズダニ」に覆われているとして、輸入規制に向け動いている。

 200種類の品をそろえ、ワインバーも兼ねたチーズティックのカウンターの上には、「ミモレットを救え」と書かれた紙が掲げられている。エルバーさんはAFPの取材に対し「もう2、3週間したら、ミモレットは卸業者から入らなくなってしまうだろう」と嘆いた。

 明るいオレンジ色をした優しい風味の仏産チーズは、この数か月、米国で存亡の危機にさらされている。米食品医薬品局(US Food and Drug AdministrationFDA)が今後一切の輸入を停止したからだ。米当局は、ミモレットのメロンの皮のような外皮がダニに覆われているとして規制に乗り出した。ミモレット独特の風味を生み出しているのは、そのダニたちであるにもかかわらずだ。

 まだ正式には禁止されていないが、すでに1.5トン分のミモレットが税関で差し止められている。仏輸入会社「イズニー(Isigny-Sainte-Mere)」のベノワ・ドビトン(Benoit de Vitton)氏によれば、この1.5トン分のミモレットは最終的に廃棄処分されたという。結果、ミモレットの在庫はあっという間に消え、チーズ愛好家たちは気をもんでいる。

 ミモレットはゴーダチーズよりも匂いがほのかだというエルバーさんは、交流サイトのフェイスブック(Facebook)やマイクロブログのツイッター(Twitter)でミモレットの「大義」を守る活動を始めた。店のレストランコーナーでは、メニューにFDAの決定に関する説明と共に、ミモレットが「ルイ14世(Louis XIV)の時代から、フランスの代表的なチーズ」であった旨が書かれている。

 だが、今回の問題で売り上げは増えている。エルバーさんの店では、以前は1週間に1ポンド(450グラム)程度の売り上げだったミモレットが、停止措置以降は7~9ポンド(3~4キロ)売れている。値段は1ポンド当たり30ドル(約2900円)で安くはない。

 教師のロバート・ストーンさんも、FDAの動きは理解できないという。「明らかに安全なチーズだ。みんな、何百年も食べてきたのだから」

 フェイスブックに「ミモレットを救え」というページを立ち上げたジャーナリストのセシル・デラルーさんは、ロサンゼルス(Los Angeles)でミモレットを探し回ったがどこにもなかったという。デラルーさんのページでは、愛好家たちが遠くフランスからミモレットを取り寄せる方法について情報を共有している。ある男性は「いつか孫が味わえるように」ミモレットを地下室に貯蔵してあると述べる。またフランスに行った友人にミモレットを持って帰ってきてくれるよう頼んだファンたちもいるという。

 エルバーさんの店では、ミモレットの「最後の一片」を味わうパーティーを計画している。その最後の一口のための「祭壇」も用意してあるという。(c)AFP/Fabienne FAUR