【7月18日 AFP】中国・海南(Hainan)島にある県の高齢者たちは侵略や内戦、飢餓を生き延び、多くが暖房のないコンクリートむき出しの小屋に住み、1日わずか数百円で暮らしている。しかしこの住民たちは、世界でも最も長寿に入る人々だろう。

 熱帯の島の村々の中にみかん農園が点在する、中国海南省澄邁(Chengmai)県。県民人口56万人のうち、100歳を超える住民は200人以上。世界で最も高い割合だ。世界中で400人いないという110歳を超える「超長寿」は、少なくとも3人いるという。

■運動と野菜中心の食事に晩酌少々

 科学者たちは、長寿で有名な他の場所──キューバ、ギリシャや日本の島々、コスタリカの半島にも見出せる共通項があるという。家族の重視や、身体活動を要求する生活様式、野菜中心の食事だ。

 中国は時代の激変をくぐり抜けてきた──日本による侵略から国共内戦での共産党軍の勝利、計画経済から市場経済への移行──しかし澄邁の人々の多くは、いつも通りのことをやって来た。穀物を育てることだ。「きつい畑仕事以外、何も運動なんてしたことはない」というワン・カイルーさん(86)さんと妻のウー・アイヘさんは68年前、第2次世界大戦で日本が降伏した翌日に結婚したと語った。コンクリート打ちっぱなしの平屋に家具はほとんどない。小さな自分の畑にまくための水は井戸から引いている。

 米国社会科学研究評議会(Social Science Research Council)の「中国環境健康イニシアチブ」を運営するジェニファー・ホルダウェー(Jennifer Holdaway)氏は昨年、政府関連の会議で澄邁県を訪れ、経済が農業を中心に回っている点を指摘した。「たくさんの産業があるわけではないが気候に恵まれ、すぐに体を動かすことができ、食事は健康的。果物も野菜もたくさんあり、土壌は(必須微量栄養素の)セレンが自然に、豊富に含まれている」

 一方、地元の人々が健康に欠かせないと頼みにしているのは「地酒」だ。居住許可証には104歳と記載されているシュー・ユーヘさんは、穀類から造った地元の酒「三椰春酒」を毎日晩酌しているという。子どもと孫が計31人いるというシェン・シェーさん(80)も「お酒は毎日飲んでいる、少しだけですけどね。体が温まるんです」と相槌を打つ。

■毎朝の社交風景

 長寿のカギは活発な社会生活にもあると、専門家らはいう。澄邁の毎朝の風景は、大勢のお年寄りが茶房のベンチを埋め、男性は奥の方でトランプ遊び、女性は手前でおしゃべりをしたり昔の歌劇を聴いたりするというもの。「毎朝ここへ来て運動して、歌劇を見て、お茶を飲んでます」というシェンさんはその後、黄色のペンキで塗られた健康器具を試しに飛び出して行った。

 澄邁県共産党委員会が行った研究によれば、県民の長寿の理由は「勤勉さ、純真さ、寛大さと野菜を中心とする節度ある食事、早寝早起き」にあるという。県では「長寿の里」としてアピールしようと、100歳を超えた県民の合唱団を作ったり、メディア出演を後押ししている。

■引退生活者の憧れ、温暖な気候

 中国全土の引退生活者に人気の海南島で近年、広大な開発を行ってきた不動産会社らも便乗しようとしている。県内に点在する開発されたばかりの高層住宅地域の一つの広告は「長寿の街」と銘打っている。

 しかしAFPでは、面倒をみる家族がいない高齢者のための新設住宅を取材したが、澄邁県が高齢者介護への投資を増やす一方で、そうした高齢者住宅の設備は簡素なままだ。

 専門家らは、世界の長寿地域は裕福な地域では珍しいという。ホルダウェー氏は「こういう気候の場所に暮らしていたら、簡素な家に蚊帳と籐作りの椅子があって、あとは一緒に過ごす人がいれば、気持ちよく暮らすのに多くは要らない。多くの時間を屋内で過ごさなくてはならず、冬は新鮮な食べ物の値段が上がる北国に住むのとは全然違う」と語った。(c)AFP/Tom HANCOCK