【6月26日 AFP】世界的に有名なロシアのパントマイム芸人スラバ・ポルニン(Slava Polunin)氏(63)が、同国で最も古い老舗サーカスの監督に任命されたのは、サーカスが動物虐待疑惑に見舞われた数か月前。醜い騒動を起こさずに古風なサーカスを改革するという難題が、同氏には突き付けられている。

「フォンタンカ・サーカス(Fontanka Circus)」の通称で知られるサンクトペテルブルク国立ボリショイサーカス(Bolshoi Saint-Petersburg State Circus)があまたある動物を使った演目を廃し、もっと技巧的な欧州風のスタイルに方向転換するのかどうかと質問されると、本名ビャチェスラフ・ポルニン(Vyacheslav Slava Polunin)氏は慎重に言葉を選びながら「このサーカスの強みは残したい。何も壊したくはない」と答えた。

 ポルニン氏は長年、フランスや英国、カナダで活躍し、エンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ(Cirque du Soleil)」と共演した後、千載一遇の招きを受けて今年1月、フォンタンカ・サーカス監督に就任した。

 1877年創立のフォンタンカ・サーカスは、拠点があるサンクトペテルブルク(St. Petersburg)市内の通りが名前の由来。ロシア初の常設サーカスで、帝政ロシア時代の面影を残す街の一等地の芸術的な建物にある。創立者はイタリア人のガエターノ・チニゼッリ(Gaetano Ciniselli)氏で、ロシア革命までは同氏の一族が経営。1919年に国営化され、同氏の息子は国外に脱出した。

■「顔を洗って出直し」の直後に「動物虐待」の声

 凝った装飾が施されている建物には「チニゼッリ・サーカス」の看板が現在も残っているものの、内部は輝きの大半を失っている。旧ソ連時代から使用されている円形劇場は、赤い布張りの座席が色あせ、老朽化が目立つ。

 同サーカスをめぐっては、旧ソ連時代と代わり映えしない内容や、先見性の欠如が批判の的になってきた。昨年は創立135周年を迎えたにもかかわらず、公演はスーツ姿の猛獣使いによるライオンの芸や、ロシア民謡に乗って披露されるアクロバット、1列になって後ろ脚で歩くプードルの行進など、旧ソ連時代の定番ばかりだった。

 4月にポルニン氏は、サーカスの建物の正面を洗う象徴的なパフォーマンスを催し、ドラム奏者やジャグリング芸人、ピエロがせっけん水にまみれながら跳ね回った。

 しかし数日後、国内の動物愛護団体ビタ(Vita)が、調教中に虐待されるサルやカンガルーの動画を公開したことが、同サーカスを揺るがす事態に発展した。

 虐待があった具体的な日時は不明だが、著名ロックミュージシャンのボリス・グレベンシコフ(Boris Grebenshikov)氏や映画監督のアレクサンドル・ソクーロフ(Alexander Sokurov)氏などがポルニン氏に書簡を送り、「サーカスの動物囚たち」に対する過酷な仕打ちをやめ、演目から動物を完全に排除するよう求めた。

■ロシアサーカスの伝統継承か、改革か

 様々な動物が登場する首都モスクワ(Moscow)の有名サーカス、ドゥーロフ動物劇場(Moscow Durov Animal Theatre)は「虐待の個別事例は、全体の状況を表すものではない」と主張し、ロシアのサーカスが何十年も引き継いできた伝統である動物による演目を守るよう、ポルニン氏に懇願した。

 厳しい決定を下すことになるかもしれない。ポルニン氏自身は自分のショーで動物を使わないが、サーカス団員の多くは動物の調教師であり、演目にはサルやアシカ、クマ、ラクダまでもが登場する。こうした動物たちはサーカスの劇場近くと、市中心部から離れた場所の両方で飼育されている。

 この件について、ポルニン氏はAFPの取材で明確なコメントを避け、動物虐待に反対する書簡を受け取ったこと、それを踏まえて討論会を開くつもりだと述べるにとどまった。

 建物の改修とショーの内容の両方で、大仕事が必要だと同氏はいう。「(フォンタンカ・)サーカスは1950年代がピークだった。今は停滞している。団員は非常にプロ意識が高く有能だ。ただ方向性や新しいアイデアを欠いている」

 そんな中、不満はフォンタンカ・サーカス内部でも高まりつつある。先週、同サーカスのスタッフがウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に書簡を送り、ポルニン氏が不正行為や浪費をしているとして監督の解任を請願した。100人以上が署名したこの書簡はインターネット上で公開され、パントマイム師のポルニン氏は、ロシアサーカスの伝統を否定したがっている「サーカス文化から遠くかけ離れた人物」だと責めている。

  ポルニン氏は代表作「スラバのスノーショー(Slava's Snowshow)」で世界各地を巡演し、2009年には米トニー賞(Tony Award)にノミネートされた経験も持つ。同氏は公式ウェブサイトで、自分の演技はサーカスよりも、むしろ「舞台芸術」だと説明している。

 ポルニン氏は監督就任後、「一部の団員が不安に思ったのは無理もない」と認めた上で、「新しい試みは常に不安を招くものだ」とコメントしていた。(c)AFP/Marina Koreneva