【8月23日 AFP】意識は完全にあるが体がまひする「閉じ込め症候群」になり、「死ぬ権利」を求めて裁判を起こしたものの認められなかった英男性が22日、死去した。男性の弁護団と遺族が同日発表した。

 亡くなったトニー・ニックリンソン(Tony Nicklinson)さん(58)は2005年、ギリシャ・アテネ(Athens)出張中に起きた脳卒中がもとで閉じ込め症候群になった。ニックリンソンさんは、閉じ込め症候群になった後の人生は「完全な拷問」だとして、死ぬ権利を認めるよう求めて裁判を起こした。

 しかし英高等法院は16日、自発的安楽死を殺人と見なす判例から逸脱するべきではないという判断を3人の判事の全員一致で下した。高等法院は、現行法は人権を侵害しておらず、法改正の必要性の有無は裁判所ではなく議会が判断すべきだとした。

 判決を聞いたニックリンソンさんは涙を流し、判決に「打ちのめされた」と語っていた。前週、涙にくれるニックリンソンさんとともに自宅で取材に応じた妻のジェーン(Jane Nicklinson)さんは、判決は一方的だとして上訴する姿勢を示すとともに、上訴審でも敗訴すればニックリンソン氏は自然死するか、断食して死ぬまでこの生活を続けるでしょう、と話していた。

■肺炎で急激に容体悪化

 遺族の発表によれば、 ニックリンソンさんは肺炎で急激に容体が悪化し、22日午前10時(日本時間同日午後6時)ごろイングランド(England)西部メルクシャム(Melksham)の自宅で安らかに息を引き取ったという。ウィルトシャー(Wiltshire)の警察当局は、警察も検死官もニックリンソンさんの死について調べていないとしており、死因に疑わしい点はないとみているもようだ。

 ニックリンソンさんの妻と娘たちは、同氏のツイッター(Twitter)アカウントに次のようなメッセージを投稿した。「彼は死ぬ前に、私たちにこうツイートするように頼みました。『さようなら、世界よ。その時が来た。楽しかったよ』」

「長年にわたりご支援いただき、ありがとうございました。私たちにとって辛い時ですのでプライバシーを尊重していただければ幸いです。愛を込めて、ジェーン、ローレン(Lauren)、ベス(Beth)より」

(c)AFP