【12月31日 AFP】米テキサス(Texas)州オースティン(Austin)の18歳の高校生だったベン・ブリードラブ(Ben Breedlove)君が、ユーチューブ(YouTube)に残した希望に溢れるメッセージが静かな感動を呼んでいる。

 18日に投稿された動画のなかでブリードラブ君は、時折、笑みを浮かべながら、メッセージが書かれたカードを1枚ずつカメラに向ける。胸にペースメーカーを埋め込んだ手術の痕を見せたりもする。

 ブリードラブ君は先天性の心臓疾患を抱えていたため、他の子どもたちと違ってスポーツを楽しむこともできなかった。そして常に恐怖を感じていたという。「初めて死にかけたのは、4歳のときだった」。カードを通してブリードラブ君は語る。

 心臓発作で倒れて病院の廊下を運ばれる途中、ブリードラブ君には頭上に明るい光が見えた。母親にそう伝えると、何も見えないと言われたが、光を見たブリードラブ君の心からは恐れや不安が洗い流され、ほほ笑まずにはいられなかったという。

   「どれだけ平安な気持ちになれたか、とても言い表せない。あの日に感じたあの感覚は一生忘れない」

■「死ぬのは怖かった」

 ブリードラブ君は数か月前にも、へんとう除去手術の最中に心臓発作を起こして死にかけた。「一命を取り留められたのは奇跡だった」。「死ぬのは怖かったけど、死ななくて本当に良かった」

 12月6日、ブリードラブ君の心臓は再び止まった。オースティンの高校で意識がもうろうとなったブリードラブ君はベンチに座り、そこで意識を失った。

 意識を取り戻したとき、ブリードラブ君は話すことも体を動かすこともできなかった。AED(自動体外式除細動器)の電極パッドを胸に押し当てられている間、ブリードラブ君にできたのは見ることと聞くことだけだった。救急医療隊員が、心臓が止まっている、脈がない、と言ったのが聞こえた。

 この経験から、ブリードラブ君は「人間は体が死んだ後も、脳はしばらく生きている」と考えるようになった。「あの時は、今度こそ自分は本当に死ぬんだと思った」

■「最高の気分だった」

 しかしその後、ブリードラブ君は不思議な体験をする。

   「次に起きたことが、夢だったのかまぼろしだったのかぼくには分からない。でも気を失っているとき、ぼくは白い部屋にいた。壁がなくて、どこまでも広がっていた」

 すると、ブリードラブ君はとなりに憧れのラップ歌手、キッド・カディ(Kid Cudi)が立っていることに気付いた。2人とも、いかしたスーツ姿だったという。

   「信じられないことに、キッド・カディがいたんだ。そこにいたのはぼくと彼だけ。今でも、なぜだったんだろうと思う」

   「この感覚は前にもあった。思わずほほ笑んだ。鏡に映った自分の姿を見て、自分を誇らしく感じた。これまでの自分の人生や、自分がやってきた全てのことを。最高の気分だった」

 そして、キッド・カディはブリードラブ君の肩に手を置くと、「このまぼろしはいつ終わるのか/天国はいつ始まるのか」と歌ってくれた。ブリードラブ君お気に入りの曲「ミスター・レイジャー(Mr. Rager)」だ。そしてブリードラブ君に告げた「さあ、もう戻りな」。そこでブリードラブ君は意識を取り戻した。

 キッド・カディ本人は、このエピソードを語るブリードラブ君の動画を見て涙が止まらなかったと語る。「うまく言えないけど、俺の心の核心に触れた。俺はこのために生まれてきたんだ。俺が歌を作ったり、俺がみんなをこれほど愛しているのはこのためなんだ」と、キッド・カディは自身のブログにつづった。「ベンは今、平和な世界にいるはずだ。俺のおやじと話す機会があればいいな」

■「天使や神様を信じる?」

 ブリードラブ君は動画の最後を4枚のカードで終えた。「あの場所を離れるのはいやだった」「ずっと意識が戻らなければいいのにと思った」「天使や神様を信じる?」「ぼくは信じる」

 動画が投稿されてから1週間後のクリスマスの日、ブリードラブ君は亡くなった。

 ブリードラブ君の家族は、この動画を神からの贈り物と考えている。「主は私たちの大切な息子の驚くべき人生を使って、クリスマスの夜に、この疲れた世界に手を差し伸べられました。2000年前にご自身の御子を使ってなされたのと同じように」というコメントを発表したブリードラブ君の家族は、多くの人にこの動画を見つけてほしいと願っている。(c)AFP/Mira Oberman

【参考】ブリードラブ君の動画
「This is my story (Part 1)」
「This is my story (Part 2)」