【12月26日 AFP】米ウィスコンシン(Wisconsin)州の医師、モイセス・ガルシア(Moises Garcia)さんは今年のクリスマス、離婚した妻が日本に連れ去ってしまった娘を約4年ぶりに自宅のベッドに寝かしつけることができた。苦い法廷闘争の末だった。

 「カリナは自宅にいる。奇跡だ」と、ガルシアさんは24日、記者団に語った。

 ガルシアさんは、日本人の元妻が2008年2月に当時5歳だったカリナちゃんを連れて日本に帰国してから、彼女を取り戻すために35万ドル(約2700万円)を費やし、情熱的に闘ってきた。

 英語を忘れてしまうだろう娘と会話できるようにと、日本語を学んだ。日本で弁護士を雇い、太平洋を9回往復して問題解決を訴え、娘との面会を求め続けた。米国務省と祖国ニカラグア政府の協力も取り付けた。日本に子どもを連れ去られた親たちで作る運動団体「グローバル・フューチャー(Global Future)」でも活発に活動した。

 09年、ガルシアさんは大きな勝利を収めた。日本の裁判所は、米裁判所がガルシアさんに認めた全面的な親権を認めていなかったが、ガルシアさんに娘と会う権利を与えたのだ。元妻が上訴したために訴訟は長期化したが、それでもガルシアさんは闘い続けた。

 この間、ガルシアさんは娘にわずか3回しか会えなかった。会えた最長時間は、ホテルのレストランで過ごした2時間だった。学校の一般公開日には、わずか10分しか会えなかった。

■元妻のハワイ逮捕がきっかけに

 日本人の親に日本に連れ去られた後に、司法の助けを得て子どもが米国に引き渡された事例は、カリナちゃんが初めてだ。しかも、例外でしかない。元妻が今年4月に米ハワイ(Hawaii)島を訪れ、現地で児童誘拐容疑で逮捕されていなかったら、カリナちゃんが米国に戻ることはなかったからだ。

 元妻は、ウィスコンシン州の刑務所で数か月身柄を拘束された後、カリナちゃんをガルシアさんに引き渡す代わりに長期の禁錮刑を執行猶予に減刑するという司法取引に応じた。

 「文明社会でこんなことは起きてはならない」とガルシアさんは語る。

■ハーグ条約加盟しても残る問題

 日本は先進8か国(G8)で唯一、国際結婚が破綻した際に子どもが無断で国外に連れ出された場合は元の在住国に戻すことを定めた「ハーグ条約」に加盟していないが、国際的な批判の高まりを受け、加盟方針を決めている。

 しかし、日本がハーグ条約に加盟したとしても、加盟後の連れ去り事例にしか適用されない。米国の親が日本に連れ去られた子どもの引き渡しを求めている120件を超える未決事例は、適用外だ。

 ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官は19日、玄葉光一郎(Koichiro Gemba)外相との会談でこの問題を再度取り上げ、日本に対し条約加盟に向けた「断固とした行動」と「未決事案への対策」を求めた。

 子ども連れ去り問題に長年取り組んでいる米共和党のクリストファー・スミス(Christopher Smith)下院議員は、ガルシアさんの事例について「問題解決へ向け迅速に行動する必要があると、改めて日本政府に警鐘を鳴らした」事例だと指摘する。「わが子が連れ去られ、不法に拘束されたままの他の親たちは、今年のクリスマスも苦しみを抱いて過ごしている」

 スミス議員は来年にも、連れ去り事件解決にあたって米政府の権限を拡大する法案を議会に提出する予定だ。この法案は米政府に対し、子ども連れ去りに対する各国の取り組みの評価を義務付ける内容で、ハーグ条約未加盟国も評価対象とし、相手国に制裁を課すこともできる。

 「この法案は(子ども連れ去りの)問題を、ダビデとゴリアテの戦いではなく、国と国との闘いにするものだ」と、10年前に制定された人身売買に関する法律の提案者でもあるスミス議員は語った。

■ガルシアさん、日本の法制度不備を批判

 ガルシアさんは、日本の法律が改正され、家庭裁判所に親権を執行する権限が与えられない限り、他の親が子どもたちと再会することはほとんど不可能だと言う。「元妻が逮捕されて、やっと日本の裁判所に欠けている法執行力を獲得できた。もし彼女が逮捕されていなかったら、カリナは二度と帰ってこなかっただろう」

 この数か月のストレスで、カリナちゃんは体重が減り、米国への移住に不安を感じているとガルシアさんは話した。それでも、父と娘は少しずつ、互いを理解し始めているという。4年間の別離でも変わらなかった部分もあった。カリナちゃんは今でも人形を全部ベッドの上に並べて眠る。それに就寝時の習慣も覚えていた。

 「彼女は、毛布をかけずに待っていた。私にかけてもらうために。娘が帰ってきたと実感したのは、その瞬間だった」と、ガルシアさんは語った。(c)AFP/Mira Oberman

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