【10月31日 AFP】世界人口が70億人に達する中、男女比の不均衡によって「独身男性の国家」が誕生し、激しい花嫁争奪戦が繰り広げられる未来が訪れるかもしれないと専門家が警告している。

 インドや中国などで広がる「男女産み分け」がどんな結果をもたらすのか、正確なところはまだ分かっていない。だが、多くの統計学者は、今後50年間で女性の数が不足し、気候変動と同じくらい深刻で多様な影響が広がると考えている。こうした警告の根拠となっている統計は、ぞっとするほど説得力のあるものだ。

 自然界における男女出生比率は女性100人あたり男性104~106人で、これは不動の生物学的基準値だ。だが、インドやベトナムでは女性100人に対し男性112人前後、中国では地域によって男性120人前後~130人以上とバランスが崩れている。この傾向は、その他の国々にも拡大しつつある。

■1.6億人の「失われた女性」

 男女比の不均衡問題は、インドの経済学者でノーベル賞受賞者のアマルティア・セン(Amartya Sen)氏が1990年に発表した論文「More Than 100 Million Women Are Missing(1億人以上の女性が失われている)」で初めて世界的に提起された。

 統計学者によると、「失われた女性」の数はいまや1.6億人に上っているという。男児を欲しがる伝統や、出生率の低下、低価格な出産前性別選択の利用拡大などが背景にある。

 仮にインドと中国の男女出生比が10年以内に基準値に戻ったとしても、両国の男性たちはその後、数十年間にわたって「結婚難」に直面するだろうと、フランスの人口統計学者クリストフ・ギルモト(Christophe Guilmoto)氏は指摘する。「結婚年齢が上がるだけでなく、独身男性が急速に増加するだろう。これまでほぼ全国民が結婚していたような国々にとっては重大な変化だ」

■暗い未来予想図、解決策なし?

 この「変化」がどのように現れるかは専門家の間でも見解が割れるが、見通しは明るくないという点では全員が一致する。一妻多夫制やセックス観光が増えるとの予測もあれば、性をめぐる略奪や暴力、衝突が常態化する「男性過剰社会」が到来するとのシナリオもある。

 特に、政治科学者のバレリー・ハドソン(Valerie Hudson)氏とアンドレア・デンブール(Andrea den Boer)氏は数年前、男性過多になったアジア諸国が欧米の安全保障上の脅威になると論じ、物議をかもした。男性過多の社会は、国内の暴力を鎮圧し植民地化や戦争などの形で外部に輸出できる独裁体制によってのみ統治可能だというのだ。

 米科学誌サイエンス(Science)の寄稿者で「Unnatural Selection(不自然な選別)」の著作があるマーラ・ビステンダール(Mara Hvistendahl)氏も、「全面戦争脅威論」には根拠がないと指摘しつつ「歴史的に見ても、男性が数的に女性を圧倒する社会は、住み心地がよくなかった」と述べる。

 男女比の不均衡が長期的にもたらす影響に対する懸念の声が次々と上がる一方、解決策はほとんど見つかっていない。ギルモト氏は、問題点を正しく公に指摘することこそが何よりもまず大切だと語った。(c)AFP/Giles Hewitt

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