【2月14日 AFP】「1999年4月。わたしは恥ずかしい。わたしはキスがへたくそ過ぎた」――。ロンドン(London)の満員のパブのステージ上、照明に照らされて、ふるえる指で小さな紫色の本を持ったキャスリンさん(28)は16歳のころに書いた日記の一節を読み上げた。

 これは、参加者たちが十代のころの恥ずかしい日記を代わる代わる朗読する「クリンジ・ナイト(恥ずかしさで身が縮む思いのする夜)」の一幕だ。観客たちは笑いころげたり、一緒に恥ずかしい気分になって楽しむ。いま、ロンドンでちょっとしたブームになっている。

 キャスリンさんはクスクス笑いながら続けた。「1999年5月。フィルにデートに誘われた。断ったわ。だって、イエスと答えたら彼に気があると思われちゃうから」

■「正直な日記」の朗読は「楽しい心理療法」?

 最悪の悪夢みたいな企画だ、と恥ずかしがりなティーンエイジャーたちは思うかもしれない。けれど、イベントを主催したアナ・マクローリン(Ana McLaughlin)さんは次のように説明する。「十代のころは、自分が世界の中心で、自分の身に起こったことはたぶん誰も経験したことのない最悪の出来事だと考えたりするけれど、そういうドラマってほんと爆笑モノなのよ」

 フェースブック(Facebook)の投稿やブログの記事などは、人に読まれることを意識して書かれているが、日記は基本的に誰にも見せるつもりのないもの。それだけに「完全に正直に書いているの」と、マクローリンさんは言う。

 このイベントが心理療法よりも効果的で、はるかに楽しい理由は、日記を書いたときから長い年月が経過しているためだ。クリンジ・ナイトで読み上げられる日記のほとんどは、書かれてから10年以上が過ぎている。

「十分な時間が過ぎたから、動転したりせずに、むしろおかしくてばかげたことだって気づくのよ」とキャサリンさんも同意する。

 一方の聴衆たちも、朗読者の日記に共感することが多い。なぜなら、そこには失恋や、親や友人との関係、飲酒、陰うつな発想、妄想といった普遍的なテーマが書き込まれているからだ。エミリーさんは15歳当時の日記にこう書いていた。「うちの家族なんて大っ嫌い。髪をカールしてハッピーになりたいのに。もう自殺するしかないわ」

■リピーターも・・・読み手は女性が多め

 とはいえ、景気付けにビールを数杯飲まなければステージに上がれない参加者もいる。「とても不安をかき立てられる体験だったわ」と告白したクレアさんは、それでも「このイベントにリピーターがいるわけもよくわかった。かなり興奮するの。観客も応援してくれるし、みんな笑ってくれる」と語った。

 クリンジ・ナイトは2005年に米国で始まった。英国には2007年に初上陸したが、最近になってようやく定期的に開催されるようになった。

 前週開催されたロンドンのイベントの朗読者は大半が20~30代の女性だったが、マクローリンさんによると、これは「女の子の方が日記を付けていることが多い」ためだそうだ。しかも、女の子の日記のほうが内容も濃いという。

 たとえば、女の子は一目見かけただけの男の子について、どんな服装だったかなど5ページにわたって書き連ねたりする。ところが「男の子の場合は、『街へ出かけた。サラに会った。服が似合ってた」でおしまいよ」とマクローリンさんは話した。(c)AFP/Beatrice Debut