【12月22日 AFP】愛や死、自由といった大きな哲学的テーマを、3~4歳児が語り合うクラスを追ったフランスのドキュメンタリー映画が話題になっている。

「次回は『親とは何のためにいるか?』について話しますからね」─ある日のクラスの終わり間際、幼児たちを教えるパスカリーヌ・ドリアーニ(Pascaline Dogliani)さんが声をかけた。

 パリ郊外の幼稚園で開かれている幼児のための哲学入門クラスを、映画監督のジャン・ピエール・ポッジ(Jean-Pierre Pozzi)氏とピエール・バルジェ(Pierre Barougier)氏が2年以上をかけて180時間の映像に収め、それを1時35分にまとめた映画『Ce n'est qu'un debut(ほんの事始め)』が、世界の大人たちをうならせている。

■「知性」「自由」「愛」について議論

 集中力を高めるために灯されたキャンドルを囲み、子どもたちは車座になる。クラスは簡単な問答から始まり、徐々に重く複雑な問いに移っていく。子どもたちの答えは可愛らしいものから、鋭いものまでさまざまだ。

「知性」に関する討論で、ひとりの子は「うちのお母さんはヌテラ(Nutella、ヘーゼルナッツチョコレートスプレッドの商品名)を冷蔵庫に入れないから」知性があると言った。大人のほうが子どもよりも知的か、という問いに別の子はちょっと考えてから「そうでもないよ。だって、大人は僕たちに『おまえはなんにも知らない、おまえはなんにも知らない』って言うけれど、僕たちは色々知ってるからね」と答えた。

「自由とは何か」を考える回で、ある子が「自分の好きなふうでいられること、息が吸えること、子どもでいられること」と答えると、別の子は一言、「牢屋から出られること」と言う。

「愛とは何か」について考えた回では、ちょっとしたドラマも起きた。ある男の子がもう自分のガールフレンドのことを「愛していない」と言った。「ずうっと顔を見つめられていて」うんざりしてしまったのだと言う。一緒にクラスに参加していた「元カノ」はがく然とした。

■映画を見た人はみな笑顔に

 カメラは同じクラスの2年目も追いかけている。子どもたちはすっかり自信を深め、ドリアーニさんの指示がなくても自分たちでディベートを始めている。「何よりも目を見張るのは、このころになるともう、これが4~5歳の幼稚園生だということを忘れてしまうような議論をしていることです」とポッジ氏は感心する。
 
 映画はすでにドイツの映画祭で賞を獲得したほか、イタリアや米国、カナダでも好評を博した。ニコラ・フィリベール監督の『ぼくの好きな先生(Etre et Avoir)』ほどのヒット作になるかどうかはまだわからないが、少なくともひとつポッジ監督をすでに喜ばせていることがある。「映画を見終わるとみんな微笑みながら出てくるんだ」(c)AFP/Anne Chaon