【12月14日 AFP】女優がすらりとした長い足をさらけ出しながら、スカートを脱ぎ、踊る・・・映画としてはとりたてて珍しい場面ではないかもしれないが、とりもなおさず、南アフリカの黒人の、黒人による、黒人のためのポルノ映画のワンシーンだ。

 女優が身に着けている衣装と同じくらいわずかなセリフは、コサ語、ズールー語、ソト語で話される。映画のタイトルは「マポナ Vol 1(Mapona Volume 1)」。マポナとはソト語で「はだか」の意だ。ヨハネスブルク(Johannesburg)で撮影された。製作者のタウ・モレナ(Tau Morena)氏(30)は、「隣に住むありきたりの男女が素晴らしいセックスをしているのをのぞいているような」感覚を味わってもらうべく、この映画を作ったと言う。

 映画は、南アで製作される大半のポルノDVDとは異なり、男優がコンドームを装着して撮影に臨んだこと、撮影前には出演者全員にHIVや性病の検査が義務づけられたことでも、大きな話題となった。「コンドームを使ってもセックスは楽しく、実際に(病気の予防に)役にも立つというメッセージも込めた」とモレナ氏。

 国連によると、南ア人口5000万人のうち、HIV感染者は560万人。南アは近年、HIV/エイズの予防に力を入れており、コンドームの供給数は2008年の4億5000万個から09年には15億個と飛躍的に伸びている。

■ポルノ俳優の公開オーディションを実施

 モレナ氏が映画のアイデアを温めるようになったきっかけは、中流層の黒人を中心とする南アのアダルトサイト「Sondeza.com」の会員たちが、南ア産ポルノが少ないことへの不満をもらしたことだった。モレナ氏によると、「ポルノ映画は豊富に出回っているが、多くが輸入もの」だという。

 「マポナ Vol 1」のポルノ女優・男優の公開オーディションには、数百人が列を作った。要件はただ1つ、「陽気な性格であること」だった。DVDは6週間前にポルノショップの店頭に並び、1本150~200ランド(約1800~2400円)で販売されている。

 ポルノ映画の配給会社JT Publishingによると、南アのポルノ映画産業は近年急成長している。国内で製作されたポルノ映画の数は、09年には4本だったが今年はすでに10本程度にのぼっている。

■アパルトヘイトで禁止されていたポルノ

「マポナ Vol 1」は一方で、物議も醸している。アフリカ・キリスト教民主党(African Christian Democratic Party)のケネス・メシュー(Kenneth Meshoe)党首は、「ポルノは女性を搾取するもの。わが国の黒人が、本来のアフリカとは異質のものを選択したことに失望している」と述べた。

 コンドームの使用についても、映画を観たからといって行動が変化するとは限らないと指摘する専門家もいる。

 ポルノは、南アでは比較的新しい商品だ。アパルトヘイト(人種隔離)下で、ポルノ産業は厳しく統制された。1994年に少数白人政権が終焉し、黒人政権が誕生すると、96年に映画の規制が緩められ、都市部のポルノショップの棚には輸入もののポルノビデオがあふれるようになった。

 変化の波の兆しはほかにもある。来年には、米男性誌「プレイボーイ(Playboy)」の南ア版が発刊される予定だ。(c)AFP/Tabelo Timse