【6月3日 AFP】「出土品」はブタの耳、子牛の肺、ヤギの乳房のくん製などなど――。仏パリ(Paris)南郊のジュイ・アン・ジョザ(Jouy-en-Josas)で今週、一風変わった発掘調査が始まった。

 発掘対象は、昔の「屋外宴会場」。ただし、昔と言ってもわずか30年ほど前のものだ。

 作業員たちはフランスでも屈指の考古学者の監督の下、ほこりまみれになりながら大宴会での「食べ残し」を掘り出していく。この宴会には「Lunch Under The Grass(草の下でのランチ)」という作品名が付けられている。つまり、この宴会自体が、アートパフォーマンスだったのだ。

 宴会を企画したのは、戦後の欧州アートを代表するスイスのアーチスト、ダニエル・スポエッリ(Daniel Spoerri)氏だ。1983年4月23日、アーティストや画廊のオーナー、批評家、友人ら80人余りを壮麗な庭に招待し、昼食を振る舞った。メイン料理は動物の臓物だった。

 食事が終わると、参加者たちは皿、グラス、食べ物の残りをテーブルごと、そばに掘られた長さ40メートルの溝に落とし込み「後世に残すため」土をかぶせて埋めた。

■「ゴミ考古学」でかつての社会を分析

「つまりこれは、いわゆる『ゴミ考古学(garbage archeology)』というものなんです」と、発掘プロジェクトを率いる国立予防考古学研究所(National Institute of Preventive Archeological ResearchINRAP)の元所長のジャンポール・ドムール(Jean-Paul Demoule)博士は語る。「これらの『遺物』は、80年代のアーチストの生き方についてわたしたちに何を教えてくれるのでしょうか。そして今の社会について、何を言わんとしているのでしょうか」。ゴミを調べて当時の社会を探ろうという試みは、世界各地で始まっている。

 ルーマニア生まれのスポエッリ氏は、60年代にシュルレアリスム運動を提唱した人物の1人で、現在80歳、オーストリア在住だ。シュルレアリスムは戦後の高度経済成長期に興隆し、工業社会の旺盛な大量消費を創造の源としていた。スポエッリ氏は、客が食べ散らかした物を垂直につるすといっただまし絵で知られる。

 発掘にはスポエッリ氏も立ち会った。「ブルジョワ風の宴会にしたかったので、ピンク色と薄紫色で統一した。テーブルクロスや花を生けた花瓶はどうなったんだろう」。これまで、皿やグラスの破片は発掘されているのだが、テーブルクロスと花は長い年月の間に分解されてしまったようだ。

 発掘された品々は、専門家により分析される。今回掘り返された部分は、後世のために再び埋め直される予定だ。「20年、30年、そして50年後には、科学がもっと進歩して、これらを全く新たな手法で分析できるようになるかも知れない」とドムール博士は語った。(c)AFP/Claire Rosemberg