【4月9日 AFP】南アフリカ北西部ベンタースドープ(Ventersdorp)の農場で3日に殺害された極右白人至上主義団体「アフリカーナー抵抗運動(Afrikaans Resistance MovementAWB)」のユージン・テレブランシュ(Eugene Terreblanche)議長。殺害現場となった同氏の自宅は、高速道路をそれて車で10分、曲がりくねった未舗装道路を走って門を3つくぐったところにある。

 視界を遮るもののないこの広大な敷地は、10キロ離れたところにあるTshingタウンシップ(旧黒人居住区)にひしめき合う粗末な小屋の風景とは著しい対照を成している。アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃から16年たった今なお、農村部で根強く残る人種間の不平等を思い出させる光景でもある。

 事件に関連して、警察は21歳と15歳の黒人の農場労働者を殺人容疑で逮捕した。2人は月給300ランド(約3800円)の支払いを拒まれたために殺害したと供述している。

 事件は、同国で頻繁に発生している農場での殺人事件、そして、1994年に全人種選挙が行われて以後も白人が大半の農場を所有し続けているという実情をめぐる貧困、人種的不平等の問題を改めて浮き彫りにした。

 シンクタンク「South African Institute for Race Relations(南ア人種関係研究所)」によると、同国の白人農場主の数は約3万人と、10年前から半減しているが、依然として全農場主4万人(推定)の75%を占めている。

 そして、白人農場主が殺害される割合は、著名人の場合の約5倍。1994年以降に全国で殺害された白人農場主は最低1000人とする統計もある。

■暴力は双方向で

 一方、南ア最大の労組連合、南アフリカ労働組合会議(Cosatu)によると、労働者とその家族が農場主に殺害されたり、過酷な暴力を受けるケースも、月100件以上にのぼっている。農場主と労働者間の暴力は、双方向で行われているのだ。

 6日の同国英字紙スター(Star)は、42歳の農場主が「仕事をさぼった」との理由で労働者7人を鉄棒で殴りつけた事件を報じた。2007年には、ジンバブエ人労働者を殺害した白人農場主が有罪判決を受けた。この農場主は公判で、「(被害者を)バブーン(ヒヒの一種)と間違えて殴ってしまった」と主張していた。

 05年には、同じく白人農場主が、黒人労働者を殴打してライオンのおりに投げ込んで殺害する事件が起きている。

■南アの農場は「封建的」

 テレブランシュ議長殺害事件の容疑者が起訴されたベンタースドープの裁判所前では6日、ヨハネスブルク(Johannesburg)から来たという24歳の男性が、「南アフリカは、こうした殺人事件を踏み台にして、貧困や労働者の搾取といったより大きな問題について検証すべきだ」と語った。

 南アフリカ労働組合会議は、農場労働者たちの大半が法で定められた最低賃金よりも低い賃金で働かされており、「封建主義的だ」と主張している。(c)AFP/Joshua Howat Berger