【10月26日 AFP】フランス・ワインの名産地ボルドー(Bordeaux)地方では、石灰質の土壌にぶどう畑が広がり、小屋が点在する伝統的なワイン村の田園風景が失われつつある。

 こうした村々では徐々に、大規模なワイン醸造所が小規模な醸造所を買いあげ、また醸造所で働く農民たちも古びた家を見捨てて、近代的で洒落た郊外へと引っ越していった。フランス有数のワイン産地の情景は荒れるばかりにまかされてきた。

「こうした村を生まれ変えなければ」と、観光によるワイン村再生に情熱をもって取り組み始めたのが、ジャン・フランソワ・ジャヌー(Jean-Francois Janoueix)さんだ。ジャヌーさんは、ボルドー東部のサンテミリオン(Saint Emilion)近くの名シャトー、シャトー・オーサルプ(Chateau Haut Sarpe)をはじめ17のワイン醸造所を所有する。

「大手のワイン醸造所は、小さくてつつましい館や小屋の保存に無頓着だ。しかし、そうした建築物には過去が刻み込まれている。それらを破壊してしまえば、何本かのぶどうの木は植えられるだろうが、歴史のすべてを失ってしまう」とジャヌーさんは訴える。

 都会から遠く離れたサルプの素朴な田園風景を保護しようと決心したジャヌーさんは、所有するぶどう園の入り口まわりにあった村落を私費を投じて修復し、かつてのワイン醸造の村を再現した。細部までみごとに復元された家の前で、ジャヌーさんは「昔の雰囲気のままにしたかった」と話す。

 ジャヌーさんの見込みどおり、村はだんだんと昔の輝きを取り戻しつつある。昔あった村の郵便局の看板も再び壁に掛けられた。この郵便局で最後に切手が売られたのがいつだったかは、誰も覚えていない。

 訪れた人びとは18世紀の風車小屋や、ブドウ摘み労働者に娯楽を提供した50年代のキッチュなナイトクラブも楽しめる。広場にはもうすぐ昔風のパン屋がも開店する予定だ。

 そしてもちろん見どころは、シャトー・オーサルプの貯蔵所だ。年代物の道具や家具に囲まれながら、ジャヌーさんが勧めてくれるワインをテイスティングできる。

 その数歩先の農家小屋は、1060キロ先にある世界遺産、スペイン北西部の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラ(Santiago de Compostela)へ徒歩で旅する現代の巡礼者たちの宿となっている。

 ジャヌーさんが参考にしたのは、米カリフォルニア(California)州のワイン産地ナパバレー(Nappa Valley)の機知に富んだワインツーリズムの手法だ。ジャヌーさんもサルプが多くの観光客を魅了し、ワイン製造の歴史の片りんが伝わることを願い、自分の醸造所のワインを楽しんでほしいと思っている。

 サルプの位置も観光客誘致に有望だ。国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産に登録されたサンテミリオンには、年間100万人もの観光客が訪れている。(c)AFP/Suzanne Mustacich